白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「アキナ」(2015年8月5日)

2016年1月6日視聴。

仕事中、不意にアキナの『仏に仕える身』を見たくなった。理由はない。本当に、何の前触れもなく、無性に見たくなってしまったのである。ただ、もしかすると、最近戯れに香水を購入したことが、いくらか影響しているのかもしれない(※コントの中で、香水を身体に馴染ませるくだりがある)。

『仏に仕える身』はアキナにとって初めての単独DVD『アキナ』に収録されているコントだ。母親の葬儀を終えた青年(秋山)がうなだれていると、何処からともなく母の励ましの声が聞こえてくる。居ても立っても居られなくなった青年は、葬儀の後に「いつでもお寺の方に来てください。世間話の相手くらいならなりますので」と声をかけてくれたお坊さん(山名)の元へ足を運ぶことに。母の声が聞こえてきたことを青年が告げると、お坊さんは「もしかすると、お母様はこの世に留まっているのかもしれませんね……」と真摯に対応してくれるのだが、その最中にスマホの着信音が……。

初見は2015年11月。以来、一度も見返したことはなかったのだが、そのことが意外に思えるほどに面白かった。「聖職者である筈のお坊さんが実は俗世間に染まっている」というギャップを軸にしている『仏に仕える身』は、コントとしてはかなりベーシックなつくりになっている。最初は丁寧な喋りで生真面目な印象を与えていたお坊さんが、実は……と、少しずつ実態が明らかになっていく展開は、恐らく多くの人が中盤あたりで想定できるものだろう。それでもちゃんと笑えるのは、ディティールが細かく作り込まれているからだ。とにかく、後半の俗世間の描き方が秀逸。そういう趣味嗜好の人たちが取るだろう行為、使っているだろうアイテムのリアリティが半端じゃない。惜しむらくは、お坊さんの喋りに若干の違和感を覚えるところだが(丁寧語がしっくりこない瞬間が何度か)、それを差し引いても余りあるコントである。オチもいい。確かに、そうとしか言えない。

この流れで、他のコントも改めてチェック。画家が担当者の出題する心理テストの結果に戸惑いを隠せない『ポテンシャル』は、画家の必死さを笑いに昇華している……と見せかけた上での後半の展開が素晴らしい。ちょっとしたサイコサスペンスを見ているような気分にさせられる。短髪にしている母親を父親だと友人に勘違いされた少年が訂正せずにその場を乗り切ろうとする『ミエミエ』は、その状況に至るまでの流れを作るのがとにかく上手い。最初、ちゃんと母親だと説明するも冗談だと捉えられてしまうところが、いいフリになっている。海沿いで生まれたから色んなモノゴトを知らないという同級生との交流を描いた『海沿いで生まれたからさ』は、ナンセンスの中にペーソスが滲み出ている不思議なコント。最初から最後まで釈然としない空気が流れるけれど、それが妙に心地良い。

一番のお気に入りは『転校生とコロッケ』。放課後、まだ友達がいない転校生の秋山に、同じクラスの山名が今からメチャクチャ美味しいコロッケのお店に連れて行ってあげようと約束するのだが、山名が日誌を書き始めた途端、おじいちゃんから貰ったシャーペンの消しゴムが無くなり、教室で飼っている亀がいなくなり、更に……更に……。目的の前にありえない障害が立ちはだかるコメディ色の強いコントだ。転校生にいいところを見せようとしていた山名がどんどん追い詰められて余裕を失っていく姿がとにかく素晴らしい。意外と細かい仕草、やりとりが伏線となっている点も魅力的だ。

これだけのコントを演じているにも関わらず、自分の中でアキナが抜きん出た存在になっていないのは、未だに「元ソーセージのコンビ」という過去が私の頭にこびりついている為だろう。キングオブコントファイナリストにしてTHE MANZAIファイナリスト、その疑う余地のない確かな実力を正当に評価させないほど、ソーセージは魅力的なトリオだったのだ。だが、そのあまりにも高すぎるハードルを超えたとき、自分の中で変革が起こりそうな気もする。

しかし『仏に仕える身』、何回見ても面白いな……。 

■本編【64分】
「ポテンシャル」「思いやり、譲り合い、感謝の気持ち」「ミエミエ」「じゃがいも」「転校生とコロッケ」「仏に仕える身」「三択」「海沿いで生まれたからさ」

■特典映像【32分】
「ずっと友達でいたいからさ」「続・ずっと友達でいたいからさ」(映像監督 山元環)