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土曜深夜の視聴覚室

芸人のDVDを見てなんやかんやいうブログ

「快楽亭ブラック「非国民」」(2008年1月25日)

視聴記録
快楽亭ブラック 非国民[DVD]

快楽亭ブラック 非国民[DVD]

 

 

2016年1月3日視聴。

 

これまで、コント・漫才の話をしてきましたので、最後は落語の話を。

 

私が初めて落語を耳にしたのは、高校生の頃のことでした。学校行事の一環として、生徒全員で落語を鑑賞するというイベントが催されたのです(いわゆる「学校寄席」と呼ばれるものですね)。会場となったのは、学校のすぐ近くにある市民会館でした。当時、既に『爆笑オンエアバトル』の熱狂的なファンだった私は、それまで触れることのなかった落語が生で楽しめることに激しいコーフンを覚えていました。

 

しかし、いざ落語会が始まってみると、これがどうにもつまらない。着物姿の人たちが高座に上がって話をしている。でも、何を話しているのか、よく分からない。耳をすませて、なんとか理解しようと努力するのですが、それでもなんだか分からない。当時、私の学校にやってきたのは、上方の落語家さんたちでした。上方落語に触れたことのある方なら分かっていただけるのではないかと思うのですが、江戸落語に比べて上方落語はアクセントや言葉遣いに少し癖があり、その口調に慣れていないと、なかなか聞き取り辛いものだったのです。それに気付いていれば、幾らか対応も出来たのかもしれませんが、当時の私は落語に関してズブの素人。必死の健闘も空しく、まったく内容を理解できないお話が進行していきます。そして、気が付けば私は、居眠りをし始めていました。

 

何分が経過したのでしょうか。ふと私が目を覚ますと、その日最後の落語家が舞台に上がってきました。桂ざこば師匠です。当時、ざこば師匠は、『ぐるぐるナインティナイン』のとある企画でナイナイの二人としばしば絡んでいて、その姿が記憶に残っていた私は、すぐさま姿勢を正しました(ミーハーですね)。その日、師匠が披露した落語は『天災』でした。短気で乱暴者の男が心学の先生から格言を教わり、心を入れ替えて他人の喧嘩を同じ格言で仲裁しようとするも失敗してしまう……という内容でした。これが、とてつもなく面白かったのです。もう腹を抱えて笑うなんてもんじゃない。爆笑、爆笑、また爆笑。それは他の生徒たちも同様だったようで、それまでは落語家さんに野次を飛ばしていたり私語を交わしていたりしていた連中が、揃いも揃って大笑い。この時から、私は落語に一目を置くようになります。

 

ですが、それから数年の間、私は落語とは縁遠い日々を送ります。別に落語と距離を置こうと思っていたわけではありません。ただ、落語に触れるにあたり、当時は適切なソフトが存在していなかったのです。無論、ゼロではありませんでした。桂三枝桂枝雀三遊亭圓楽立川談志桂米朝など、時代に名を刻み込んだ落語家たちの映像が世に出回っていました。ただ、そういった作品の多くは、シリーズものだったり、DVD-BOX仕様だったりして、落語初心者だった私にとって、少し敷居が高く感じられたのです。ちなみに、この頃の私は、まだ落語を「CDで聴く」という発想には至っていませんでした。

 

本作は、丁度その時期にリリースされた作品です。

 

快楽亭ブラックの名前は知っていました。当時、恐れ知らずにも「演芸評論家」を目指していた私は、立川流の顧問でもあった演芸評論家・吉川潮氏の著書を読み込んでいたのですが、その中の一冊にブラック師匠のことが書かれていたのです。なんでも、差別ネタと下ネタを落語の中に躊躇無くブチ込んでくる、異形の落語家だとか……。正直、入口としては不適格な様な気もしましたが、コワイモノ見たさもあって、思い切って購入することにしました。

 

収録されている演目は『道具屋・松竹篇』『「紀」子ほめ』『マラなし芳一』。

 

『道具屋・松竹篇』は、ろくに定職にも就かずに映画ばかり見ている男が、叔父さんの紹介で古道具の露天商を始めるという話です。古典落語『道具屋』をモチーフとした改変落語で、ストーリーの流れは基本的に同じです。メインとして描かれているのは、露天商を始めた男の元へ、「バカヤロー!」が口癖の客だとか、お互いを「スーさん」「ハマちゃん」と呼び合う客だとか、なにやら松竹映画を思わせる人々がやってくるくだりです。しかし、それ以上に衝撃的なのが、男が書き上げたオリジナルの映画台本の内容を、叔父さんに説明するくだりです。その名も『名字なき子』。貧しい親子の正体が語られた瞬間の得も言われぬ緊張感は、他所では体感できないことでしょう。ラブホテルのくだりが、もう酷すぎて酷すぎて……。

 

 『「紀」子ほめ』は、口が乱暴な男がご隠居から人をおだてるコツを教わり、カラオケ仲間の通称・チェンマイ殿下の子どもを褒めに行くというお話。こちらは古典落語『子ほめ』をモチーフとした改変落語で、ストーリーの流れは基本的に同じです。とはいえ、褒める相手が相手ですので、全体的に皇室関係のシャレにならない冗談がこれでもかと飛び出した内容になっています。ただ、先の『道具屋・松竹篇』における『名字なき子』の衝撃があまりにも大きすぎたためか、鑑賞後はやや地味な小品という印象を残します。途中、肌が白くなったマイケル・ジャクソンと遭遇したり、収録時に自殺報道が流れたばかりの松岡利勝農林水産大臣をイジったり、かなりブラック濃度の強いネタではあるのですが。

 

『マラなし芳一』は、魔性の物に魅入られて、阿弥陀寺の裏にある墓場で夜な夜な『壇ノ浦夜枕合戦記』を語っていた盲目の琵琶法師・芳一を守るため、住職が全身に有難いお経を書くも、うっかり男の大事なところに書き忘れてしまう……という話です。言わずもがな、元ネタは怪談として広く知られている『耳なし芳一』ですが、メインとして描かれているのは、むしろ芳一が語り上げる『壇ノ浦夜枕合戦記』の方だったりします。解説によると、これはロマンポルノの帝王として知られる神代辰巳監督の作品をモチーフとしたものだそうで、映画好きで知られるブラック師匠、流石に熱の入った口演を見せております(やっていることは、建礼門院徳子が源義経に夜這いされるという、モロにロマンポルノそのものなのですが)。後ろから激しく突かれながらエクスタシーに達する様は必見です。いや、描写はけっこう、えげつないんですけどね。

 

以後、ブラック師匠は全十枚のオリジナルDVDをリリースします。当時の私は八枚目まで購入しましたが、そのあまりにもエゲつない世界観にうんざりして、途中で断念してしまいました。しかし、古典落語の世界を少しだけ理解した今、改めて本作を鑑賞してみると、原典と比較することで当時は感じられなかった面白さが分かってくるんですねえ。すっかり遅くなってしまいましたが、買いそびれていた二枚を今になって購入するというのも良いのかもしれません。

 

コンプライアンスの笑い、たまにはこういうのも如何でしょうか。

 

■本編【90分】

「道具屋・松竹篇」(平成19年5月26日・浅草大勝館ショウホール)

「「紀」子ほめ」(平成19年7月21日・浅草大勝館ショウホール)

「マラなし芳一」(平成19年7月21日・浅草大勝館ショウホール)

 

■特典映像【23分】

スペシャル対談・川上史津子「芸談篇」」