白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

ヨーロッパ企画とキングオブコントの日。(2019年9月21日~22日)

ヨーロッパ企画の舞台を観るために高知へと出かける。

ヨーロッパ企画は京都を拠点に活動している劇団だ。1998年の結成以後、主宰・上田誠が作・演出を手掛ける新作舞台をおよそ年に一度のペースで上演している。2005年に第8回公演『サマータイムマシン・ブルース』、2009年に『冬のユリゲラー』がそれぞれ本広克行監督によって映画化。2016年には第35回公演『来てけつかるべき新世界』で岸田國士戯曲賞を受賞。人気・実力を兼ね備えた、今という時代を代表する劇団の一つといっていいだろう。

そんなヨーロッパ企画が手掛ける生の舞台を私が初めて鑑賞したのは今から二年前、第36回公演『出てこようとしているトロンプルイユ』。トロンプルイユ(だまし絵)をテーマに、アトラクションのような娯楽性と舞台表現としての自由度の高さ、そしてなにより創作するという行為そのものを歴史の脈絡とともに追う深みの面白さを見事に描いていて、私の心はすっかり彼らのトリコとなってしまった。無論、翌年の公演も観に行こうと考えていた。しかし、チケットを取っていた愛媛公演が、台風の接近を理由に中止。まんまとおあずけを食うことになってしまったのであった。

つまり、今回の公演は、私にとって二年ぶりのヨーロッパ企画ということになる。ああ、待ち遠しかった。

続きを読む

「M-1グランプリ2019」準決勝進出者決定!

以下、昨年大会の結果に合わせて(カッコ内は結成年)。

【決勝】
2位:和牛(06年)
4位:ミキ(12年)
5位:かまいたち(04年)
6位:トム・ブラウン(09年)
9位:見取り図(07年)

【準決勝】
10位:からし蓮根(13年)
11位:東京ホテイソン(15年)
14位:マヂカルラブリー(07年)
19位:インディアンス(10年)

【準々決勝敗退】
アインシュタイン(10年)
囲碁将棋(04年)
すゑひろがりず(11年)
セルライトスパ(08年)
ダイタク(08年)
天竺鼠(04年)
錦鯉(12年)
ニューヨーク(10年)
ぺこぱ(08年)
ミルクボーイ(07年)
四千頭身(16年)
ロングコートダディ(09年)

【三回戦敗退】
オズワルド(14年)

【一回戦敗退】
くらげ(18年)

【不出場】
カミナリ(11年)
ラランド(14年)※一回戦欠席

昨年大会のファイナリスト・ゆにばーすがまさかの敗退。二年連続で決勝進出を果たし、完全に軌道に乗ったものだと思っていたのだけれども。なかなか難しい。昨年準決勝組では「たくろう」「ニッポンの社長」「侍スライス」「金属バット」「ダンビラムーチョ」「三四郎」「ウエストランド」「マユリカ」「令和ロマン」が敗退。三四郎は準決勝戦の常連だったが、ここで遂に落とされた。

この他、決勝進出経験のある「さや香」「スリムクラブ」「馬鹿よ貴方は」「変ホ長調」「モンスターエンジン」、キングオブコントファイナリストの「ななまがり」「ビスケットブラザーズ」「わらふぢなるお」、2019年に大いなる飛躍を見せた「EXIT」「宮下草薙」「納言」などが敗退。今、EXITや宮下草薙を落とす覚悟よ。

「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2005」を振り返る。

どうも菅家です。

先日の突貫記事「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2018」はお読みいただけましたでしょうか。別に読まなくても構いませんが、読んでもらえますと、筆者としては大変に有難いです。本当です。十年以上もブロガーとして執筆活動(などと大層なものでは御座いませんが)を続けていますと、わざわざ当ブログにアクセスして記事を読んでいただけているという事実だけで、多幸感に包み込まれます。しょーもない社会問題に知ったようなヘーヅラこいてTwitterでご高説をぶっている場合じゃありません。本当に。

本題に入ります。昨夜、粗末ながらも楽しい記事を書き終え、満足感に包まれながら、ぼんやりと虚空を眺めておりましたところ、ふと、あることに気が付きました。そもそも、「このお笑い芸人DVDがスゴかった!」を第一回から読んでいただいている方は、どれほど存在しているのだろうか、と。私がブログを書き始めた十五年前は、ゼロ年代のお笑いブームにおいて、安定期を迎えつつありました。個性的な若手芸人は一通り出そろい、彼らが今後のお笑い界を背負っていくであろうと考えられていました。その頃の芸人で、今でも最前線にいる人は……本当に数えるほどしかいません。恐らくは、ブラマヨ・チュートら関西よしもと勢の逆襲と有吉弘行の復活が大きな原因ではないかと思われます。知らんけど。

話が逸れました。意図的に。

というわけで、一度当時の作品を思い出してみようという意味も含めて、第一回「このお笑い芸人DVDがスゴかった!」を振り返ってみようと思います。当時は「笑芸映像アワード」という名前にしていました。今となっては、そっちの名前の方がカッチョ良いような気がします。所詮、名前なんて、単なる看板に過ぎないですけど(いや大事やないか)。あと、この時はあくまで購入した年を対象としているので、リリース日はあんまり考慮してません。そのことを踏まえて、ご覧下さい。

続きを読む

「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2018」

どうも菅家です。突然ですが例のアレです。

今年はなんだか急に色々が面倒臭くなってしまったため、毎年の恒例にしている筈のこの企画も、作品のチョイスだけは早々と決定していたのですが、なんやかんやで今の時期にまで放置してしまいました。申し訳ないですね。とはいえ、やらないままに2020年を迎えてしまうというのもどうかと思ったので、とりあえず「こういう作品を選んでおりました」程度の公開はしても良いのではないかと考えた次第です。乱暴ですね。でも、それぐらい雑でも、やってしまわないと本当にやらなさそうなので。

ちなみに、一応は順位をつけておりますが、本来は特に順位を決めずに公開する予定でした。なんか面倒臭かったので。でも、それだと、なんだかエンタメ性に欠けるというか、今までやってきたのだからそういうのを見せてほしいという人もいそうなので、なんとなしのニュアンスで着順を決めております。なので、「なんでこの作品の順位が低いんだ!」みたいなのは受け付けません。ていうか、そんな思い入れを持って、見ないでください。明日には順位を変えているかもしれないし。……まあ、一位に関しては、正直「コレだよな」とはっきり決めましたが。一位は不動です。

というわけで、まあ、どうぞ。

続きを読む

『チョップリン「7300days」』(2019年11月6日)

7300days [DVD]

7300days [DVD]

 

2019年8月24日に新宿角座で開催された結成20周年記念ライブを収録。

チョップリンは小学校の同級生である小林幸太郎西野恭之介によって1999年に結成された。2003年に「第24回 ABCお笑い新人グランプリ 最優秀新人賞」「第38回 上方漫才大賞 優秀新人賞」「第32回 上方お笑い大賞 新人賞」を受賞、関西の賞レースにおいて高い評価を受ける。2004年に「ABC新人お笑いグランプリ」で審査員を務めていた大竹まことを有するコントユニット・シティボーイズのライブにゲストとして参加。更なる活躍が期待されていたが、その後はパッとせず。現在はラジオ関西において冠番組『日曜チョップリン』を放送中である。

チョップリンといえば『ティッシュ』の印象が強い。ティッシュの検品を任された新人(西野)が先輩(小林)から仕事内容について説明を受けるのだが、良いティッシュと悪いティッシュの区別がつかない。しかし、何故か相違点について具体的に教えてもらえないため、なんとなく分かったような顔をして作業を開始することに……。現実には有り得ないシチュエーションだが、とはいえ、実際の現場にも多かれ少なかれ「なんとなく分かったような感じで行われている作業」は存在し、その意味では強いリアリティを感じさせる。聞くところによると、西野の実体験から生まれたコントらしい。道理で。

本編の一本目で披露されている『箸工場』も、この名作『ティッシュ』を思わせる設定のコントだ。新人(西野)と先輩(小林)が二人掛かりで割り箸を箸袋に詰めるだけの作業を延々と続ける。あまりにも単純な作業のために、あっという間に昼休みが来て、あっという間に定時を迎えてしまう。単調でやりがいの感じられない作業の連続。そんな生活を始めて三日目、新人が身体に変調をきたす。突然、手の震えが止まらなくなってしまったのである。そんな新人の様子を見て、先輩はこともなさげに説明する。

「それはな、この会社では“人生発作”と呼んでいる」

『箸工場』は同年7月にABCホールで行われたライブでも披露されている。私は当時、その公演を鑑賞しているのだが、このコントを観たときの衝撃は今でも忘れられない。これほどまでに壮絶な設定のコントを私は他に見たことがない。『ティッシュ』におけるティッシュの検品作業と同様、割り箸を箸袋に詰めるだけの作業など現実には(恐らく)有り得ない。だが、このコントで描かれている、先の見えない生活・将来に対する不安は現実味を帯びている。その切実さは『ティッシュ』とは比べ物にならない。そこには確実に、私たちの生活に直結している憂鬱が息を潜めている。

「嫌だ!僕は嫌だ!ここで終わりたくないぞ!」

だからこそ、終盤に突如として投げ込まれるナンセンスな展開に、希望を感じさせられるのだが。

こんなにもハードなコントで幕を開けている本作だが、以後のコントもこれと負けず劣らぬ名作揃いだからたまらない。双眼鏡で容疑者様子をじっと伺っていて手が離せない先輩刑事の指示する飲食物を次々に口へと近づける『あんぱんと牛乳』、深夜二時のテレビに映し出された98歳の新人落語家“桂三途の川”による創作落語を鑑賞する『新人落語家』、イタズラ電話が趣味の男がテキトーに電話を掛けた相手はとんでもない人物だった!『イタ電』など、どのコントも衒いのない面白さ。

とりわけ『ケーキ屋』は屈指の出来。予約していた誕生日ケーキを引き取りに店へとやってきた父親(西野)が店員(小林)にケーキの状況を確認すると「マダデキテネェ」とぞんざいな扱いを受ける……という設定のコントなのだが、音声案内のように無機質な対応を取り続ける店員に対してどんどんヒートアップしていく父親のやり取りが、とてつもなく面白い。徹底的に無駄を省き、両極端な気質の二人によるシンプルなやり取りだけで構成されているコントを、技巧派というイメージをまったく持たせないチョップリンが(事実、『易者』のコントでは、小林の至らなさが故に意図していたこととはまったく別の笑いが生み出されてしまっている)やってのけている。『箸工場』と合わせて必見のコントである。

これら本編に加え、特典映像としてチョップリンの二人がこれまでのコンビ活動を振り返る『チョップリン上京物語』、彼らの代表作の一つ『ニューヨークにて』、東京昼公演・夜公演終了後のトークを収めた『鼻くそアフタートーク』を収録。『チョップリン上京物語』は二人の出会いからコンビ結成、東京での日々に至るまでしっかりと語り尽していて、見応えたっぷり。『鼻くそアフタートーク』は西野のシティボーイズリスペクトの締めの言葉までしっかりと収められている。いつだったか、大竹まことチョップリンに対して「俺たちの次はチョップリンかもしれない」という言葉を寄せていたが、『箸工場』のクオリティを思うと、いよいよ実現してきたといえるのかもしれない。

・本編【88分】
「箸工場」「あんぱんと牛乳」「新人落語家」「易者」「イタ電」「ケーキ屋」「強盗とニート

・特典映像【37分】
チョップリン上京物語」「ニューヨークにて」「鼻くそアフタートーク

テレビを見よ、自然へ出よう。『ひとりキャンプで食って寝る』

f:id:Sugaya:20191028222219j:plain

TVerにて『ひとりキャンプで食って寝る』を視聴。コマーシャルで見かけたときから気になっていたのに、いつの間にやら第一話の放送日が過ぎていて、気が付けば第二話の放送が終わっていた。こんな時にTVerの存在は本当に有難い。ちなみに、注意書きによると、どうやら第一話と第二話は12月末まで配信され続けるらしい。本作は主人公が二人いるので、それぞれにとっての第一話は残しておこうという配慮だろうか。実に有難い。私と同様、気になっているけれどまだ見てないという人は、第三話が放送されるまでにチェックした方が良い。否、チェックすべきだ。とにかく素晴らしかった。

簡単にストーリーを説明しよう。先述の通り、このドラマには二人の主人公が存在する。一人目は大木健人(三浦貴大)。キャンプ地で持参した缶詰を調理して食べて寝る。二人目は七子(夏帆)。キャンプ地で手に入れた山の幸海の幸を調理して食べて寝る。このドラマは、そんな二人のキャンプ地での行動を描いた作品である。今後、ドラマチックな要素が加えられる可能性もあるが、恐らくそのような無粋なことはしないだろう。何故なら、このドラマが軸に描いているのは、徹底して“キャンプ”だからだ。都会の喧騒を離れ、非日常的に過ぎていく緩やかな時間の流れを、本作はとても丁寧に描いている。余計なBGMもない。無駄がない。もとい、無駄しかない。でもそれが良い。それがキャンプだ。わざわざ出かけてテントを建てて野外で飯を食って寝る。それがキャンプだ。そして、だからこそ本作では、アクセントとしての調理が最重要事項となっている。調理から完成、そして食事までの流れを、徹底的に美味そうに見せる。否、絶対に美味い。第一話の導入部分、缶詰のコーンをバターで炒めて、酒のツマミにしているシーンで、私などは早々にノックアウトである。

正直、ちょっと綺麗に描き過ぎているようなところはある。同じキャンプ仲間が燻製したササミを分けてくれるところはまだ理解できるが、居合わせた釣り人夫婦がそんな簡単に受け入れてくれるようなことがあるだろうか。まあ、でも、そういうことが起こり得るのがキャンプである、ともいえる(とはいえ夜中の砂浜でラジオからシュガー・ベイブが流れてくるのは、あまりにも「理想的な美しさ」に満ちていて笑ってしまった)。とにかく良いドラマだ。どういうことになるかは分からないが、最終話まで見守りたい。

ちなみに、大木健人パートは横浜聡子(『世界のフラワーロード』『俳優 亀岡拓次』)、七子パートは冨永昌敬(『パビリオン山椒魚』『素敵なダイナマイトスキャンダル』)が担当している。男性パートを女性の監督が、女性のパートを男性の監督が、それぞれ撮っているというのも、ちょっと面白いかもしれない。

2019年11月の入荷予定

06「7300days」(チョップリン
27「Aマッソのゲラニチョビ マジカル・オオギリー・ツアー〜ディレクターズカット版〜
27「バカリズムライブ「image」
27「ジョビジョバライブ『Let's GO SIX MONKEYS』
27「うしろシティ単独ライブ「人生に、エクスカリバーを。」

どうも菅家です。皆さんは生きてますか。私は死にました。献血ポスターも死にました。それでも血液を求めている人は後を絶ちません。幸いにも赤十字社は死んでいませんから、皆で献血に行きましょう。あと『宇崎ちゃんは遊びたい!』も死んでません。そもそも漫画作品とのコラボとして貼り出されたポスターなのに、くだんの女性が作品内でどのように描かれている人物なのかについて語られないまま、イラストだけが切り取られて、セクハラかそうじゃないかという議論に発展していることは、それはそれで作品に対する侮辱的姿勢といえるのではないかという気がしないでもないです。お互いを尊重し合いながら前に進んでいきたいものです。知らんけど。

そんなことより11月のリリース作品ですが、やはり注目すべきはチョップリンによる久々の単独作品でしょうね。チョップリン名義のDVDがリリースされるのは、2007年に発売された『ライヴ「中年」』以来、およそ十二年ぶりのこと。……こうなると、むしろ何故に今になってリリースされるのかという疑問が浮かんできますが、気にしない気にしない。ちなみに私はこのライブを生で観賞しています。工場のコントが素晴らしいので、是非ともご覧下さい。その他、気になるところでいうと、なんだか色んなことがあったような気がしないでもないAマッソのネット番組のDVDでしょうか。なんやかんやと批判もあったでしょうが、予定通りに発売されるようです。思うところはあるようなないような感じですが、ひとまず楽しみですね。

……おおっと、菅家しのぶという名のお笑い公論エクスプレス、そろそろ蘇生の時刻がきたようです。

『俺たちはどう生きるか』(大竹まこと)

俺たちはどう生きるか (集英社新書)

俺たちはどう生きるか (集英社新書)

 

ここ数週間、本を読む時間を設けている。読もうと決意したわけではない。本を読むことが出来る時間が偶発的に発生したのである。というわけで、読まずに放置していた本を読みまくっている。先日は大竹まことの本を読んだ。タイトルは『俺たちはどう生きるか』。どこかで聞いたようなタイトルだが、内容は至ってシンプルなエッセイである。大竹が思ったこと、感じたこと、経験したことを、その声で実際に語っているかのような文体で綴られている。正直、文章としては、決して上手いとはいえない。だが、その文章からは、大竹まことという一人の人間の生き様が滲み出ている。

内容に関しては、まったく一貫性がない。ただ、全体を通して、とてつもなく感じさせられるものがある。それは「心配」だ。七十歳で古希を迎えた大竹が、その人生において感じたことや専門家の言葉から学んだことなどを、若い人たちに向けて発している。その言葉には、若者たちを心配する気持ちで溢れている。ただ、自らの老いを弁えているからこそ、強い言葉を押しつけようとはしない。自分の気持ちを淡々と述べるだけである。だが、そのスタンスがまた、大竹の確かな老いを表しているようで、シティボーイズのコントを楽しんでいた身としては、些か複雑な気持ちにもさせられる。なんだか明日にも死んでしまいそうで、大変にこわいのだ。

自身の思い出を綴っている文も多い。シティボーイズが如何にして結成されたのかは漠然と認識していたが、それまで大竹が何をどのようにして生きてきたのかをまるで知らなかったので、これは興味深く読んだ。なんでも、劇団の養成所に入る前には、ドサ回りのコメディアンとして全国のキャバレーを回っていたそうだ。この他にも、風間杜夫のこと、高校の同級生たちのこと、十七歳で亡くなった友人のこと……それらの話が走馬灯のように語られている。これが最後にするつもりなのか。それともまた老人として語る日が来るのだろうか。

 すまん。若者よ。君たちに伝える言葉をこの年よりは持っていなかった。
 ぐだぐだと回り道を、それも迷いながら生きてきた男の駄文である。
 こんなものは読まずに、女性(男性)でも口説いていたほうがよかろう。
 諸君、さらばじゃ。ありがとう。