白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「R-1ぐらんぷり2019」(2019年3月10日)

司会は雨上がり決死隊三田友梨佳(フジテレビアナウンサー)。審査員は桂文枝関根勤渡辺正行久本雅美陣内智則友近。敗者復活ステージからのリポーターに、竹上萌奈関西テレビアナウンサー)と前回チャンピオンの濱田祐太郎

【Aブロック】
チョコレートプラネット松尾「IKKOさん」(1)
クロスバー直撃 前野悠介「動体視力のテスト」(0)
こがけん「マジカルマイク」(7)
セルライトスパ大須賀「赤ちゃんを寝かしつけながら漫談」(10)

持ちネタのIKKOモノマネに『一休さん』の有名なエピソードを掛け合わせたコントを披露したチョコレートプラネット松尾、動体視力のテストと称して創作性に満ちた小道具を飽きさせない構成で見せつけた(「実印」の重ね技とバームクーヘンの演出は見事!)上で“メルカリ”という旬の要素も取り入れたクロスバー直撃・前野悠介、“どんな曲でもアメリカの80年代の歌手風に歌い上げてしまうマイク”という設定を抜群の表現力で最後まで押し切ったこがけん、大声を出せない状況を作り出してヒソヒソ声でアトランダムな漫談を披露するという新機軸の手法を編み出したセルライトスパ大須賀。既にコンビとしての面白さが認知されているチョコプラ松尾が一段下がって、残り三人で票を取り合うことになる……と想定していたのだが、いざ蓋を開けてみると、こがけん大須賀の一騎打ちに。結果、全審査員に満遍なく評価された、大須賀が最終決戦に進出する。前野……。

【Bブロック】
おいでやす小田「勝ち組の駄々っ子」(6)
霜降り明星 粗品「夢ってなんかヘン」(6)
ルシファー吉岡「共学」(2)
マツモトクラブ(復活2位)「犬」(4)

勝ち組になっても庶民の感覚を捨てられない人間が全力で駄々をこねるという落差のある設定に自身のイジられキャラを上手くはめ込んだおいでやす小田、確固として強烈な発想力をシンプルなイラストで表現しながら更にシンプルなツッコミで畳み掛けた霜降り明星 粗品、その場には存在しない異性に免疫のない男子たちの姿を台詞回しで浮き彫りにするという一人コントの醍醐味を見せつけたルシファー吉岡、真実を見抜く犬を介した友人同士の会話を切なく描き出したマツモトクラブ。ネタを伝わりやすい方向へと寄せ過ぎてしまった感のあったマツモトクラブ、ネタそのものは面白かったが霜降り明星としての漫才の方が圧倒的に面白かった霜降り明星 粗品がやや弱いと感じたので、おいでやす小田かルシファー吉岡が行くだろうと読んでいたのだが、おいでやす小田と粗品が同点という結果に。“より多くの審査員に評価されたほうが勝者となる”という規定ルールに則り、粗品が最終決戦に進出する。

【Cブロック】
◎だーりんず 松本りんす「カツラ芸」(8)
河邑ミク「大阪へ転校」(3)
三浦マイルド広島弁漢字ドリル」(6)
岡野陽一(復活1位)「鶏肉」(1)

丁寧かつ落ち着いた口調でカツラを用いたパフォーマンスを披露するというギャップで笑いを巻き起こした松本りんす(オチ前の悲哀に満ちた一言が素晴らしい)、大阪に対する偏見を正確な再現とともに撒き散らした河邑ミク広島弁アウトローにまみれた漢字ドリルの例文を乱打した三浦マイルド、“鶏肉をもう一度大空に飛ばしてやっているおじさん”というメッセージ性の強い狂った設定のコントを直球で押し通した岡野陽一。笑いの度合いという意味では三浦マイルドが圧倒的。だが、会場の空気を掴んでいたのは、自らの身体を張ったパフォーマンスを披露した松本りんす。どちらかに軍配が上がるだろうと予想していたが……結果は、僅差で松本りんすに軍配が上がる。それはそれとして、友近岡野陽一のコントに一票入れていたのは、なんだかとてもアツかった。

 【最終決戦】
セルライトスパ大須賀「猛獣に囲まれながら漫談」(7)
霜降り明星 粗品「夢ってなんかヘン」(7)
だーりんず 松本りんす「カツラ芸」(4)

一本目とはまったく違ったシチュエーションを提示することでヒソヒソ漫談の内容とのギャップを強めた大須賀、更に磨き上げたネタにバンクシー要素を加えることで完全に獲りに来た粗品、パフォーマンスの間に挟み込まれる喋り部分のクオリティを格段に上げてきた松本りんす。リアルタイムで視聴しているときには、どの芸人が勝つのかまったく予想できなかったのだが、冷静になった状態で観返してみると、粗品のネタの精度が格段に上がっていて、ビックリしてしまった。これは勝たせないわけにはいかないだろう。結果、大須賀と粗品が同点となるも、ルールに則って粗品が優勝。なにやらしこりのようなものを感じなくもないが、優勝は優勝である。おめでとうございます。

続きを読む

「オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー in 日本武道館」に行ってきた!

【三月二日(土)】

午前六時半起床。眠い。昨夜、いつもの週末のように、少し夜更かししてしまったためだろう。本来の予定では、いつもよりも早くに布団へ潜り込み、万全の体調で望むつもりだったのだが。どうにも夜更かしが好きな性分なので、仕様がない。尤も、前日のうちに、大体の用意は済ませている。多少、覚醒していなくても、それなりになんとかなるように準備できているのである。

身支度を整えて、午前七時過ぎに自宅を出発。車で高松空港へと向かう。運転中、radikoで先週の『オードリーのオールナイトニッポン』を聴こうと思っていたのだが、ここでスマホの充電を消費することもないだろうと考え直し、移動中は前々からカーナビ機に突っ込んであった楽曲を聴いていた。Creepy Nutsの『スポットライト』は何度聴いても気持ちが高揚する。途中、コンビニに立ち寄り、おむすびとフライドチキンを買う。某コンビニのチキンは、齧り付いたときに油が飛び出すことがあるから要注意だ。

午前八時半ごろ、高松空港に到着。出航の予定時刻は午前十時だったので、随分と早めに着いてしまった。しばらく空港内を彷徨って、それなりに時間を消耗したところで、荷物検査を受けて搭乗口へ。午前十時、予定通りにフライト。飛行中はKindleで購入した『今夜、笑いの数を数えましょう』を読み進めた。21世紀最大のお笑い評論本かもしれない。

今夜、笑いの数を数えましょう
 

午前十一時十五分、成田空港に到着。第3ターミナルから徒歩で空港第2ビル駅へと移動し、午前十二時十分発のスカイライナーで京成上野駅へ向かう。同四十五分ごろ、上野に到着。ひとまず荷物を預けるため、宿泊予約を入れていた「サウナ&カプセルホテル北欧」へと向かう。午後一時、チェックイン。受付の女性が研修中で初々しく、ちょっと見とれてしまった。

f:id:Sugaya:20190302125249j:plain

ロッカーに荷物を預けて外出。近隣の「名代 富士そば」で昼食を取る。盛りそばの大盛りを食らう。東京に来るたびに、ひとまずここで食事しているような気がする。

f:id:Sugaya:20190302130822j:plain

食後、JR上野駅から銀座線で日本橋駅、日本橋駅から東西線九段下駅へと移動する。道中、スマホTwitterのタイムラインを眺めていると、オードリーのANN公式アカウントがグッズの完売を次々に告知していて、気持ちが慌てふためく。別にグッズを目的に来ているわけではないが、折角だから記念となる何かを買って帰りたいというのが田舎者の心情である。

午後一時五十分ごろ、九段下駅に到着。駅を出て、呼吸を乱しながら早歩きで長い坂道を上がっていくと、左手に日本武道館への入り口が見えてくる。否、厳密にいうと、そこは北の丸公園の入り口で、日本武道館は公園の中にある施設なのだが。彌生慰霊堂を横目に田安門を抜け、道なりに歩いていくと、すぐさま日本武道館が姿を現す。その脇に物販を行っているテントが見えたので、即座に飛び込む。ちょうど人の波が落ち着いていたところだったのか、まったく並ぶことなく売り場に辿り着くことが出来た。既にかなりの数のグッズが売り切れていて、欲しかったマフラータオルを手に入れることは出来なかったが、今回の公演を象徴するラスタカラーのリストバンド、妙に可愛いマルシェバッグとトートバッグは購入することが出来た。マルシェバッグとトートバッグは後に売り切れたらしい。間一髪。

f:id:Sugaya:20190302135657j:plain

ここから、しばらく開場時刻まで二時間ほど余裕が出来てしまったので、神保町へと移動。Twitterで大見崇晴さんに教えてもらった「矢口書店」に行く。演芸・映画・演劇関係の本に加えて、テレビドラマ・映画の台本も取り扱っている古書店で、とにかく濃い。辛うじて、自分でも手を出せそうだと思えたのは、板尾創路による『板尾創路13日の金曜日(仮題)』のシナリオ(※後に『月光ノ仮面』となった作品である)ぐらいのもの。とても自分のような若輩者が立ち入ってはいけない店だと悟り、すぐさま飛び出して、近場のアダルトショップで倉持由香の写真集を探しながら心を落ち着かせる。

f:id:Sugaya:20190302141655j:plain

午後三時二十分ごろ、日本武道館に戻ってチケットをもぎってもらい、入場。事前に本人確認をすると聞いていたので、免許証を構えていたのだが、何もチェックされずに入場することが出来た。どうも、チェックされる対象が、ランダムになっていたらしい。なんだそれ。チケットは全席指定。私の席は西側二階の真ん中あたりにあった。初めての日本武道館はとても大きかった。なにせ、五周年記念イベントで訪れた東京国際フォーラムの倍以上の客席数というのだから、とんでもない大きさである。こんな大きな会場を、たった二人の芸人を愛する人たちが埋め尽くすというのは、改めてスゴいことだと実感させられた。その後、開演までの一時間を、だらだらと自分の席で過ごした。正直、かなり退屈していたのだが、後からやってきた右隣の席の若者たちが、なかなかのお笑いフリークだったようで、ニッポン放送の番組やJUNK、ネタ番組に毒ガスを吐いていたのをこっそり盗み聞きしているのが楽しくて、なんとか時間を潰すことが出来た。有難う。何処の誰かは知らないが。開演までの時間、館内では裏方スタッフによるアナウンスと番組に馴染みのある楽曲が放送されていた。途中、『山里亮太の不毛な議論』のテーマソングが流れたとき、ちょっとだけ客席がざわついたのが面白かった。というか、何故にあの曲が。

午後四時半を少し過ぎたところで開演。おおよその流れは以下の通り。

入場(スター春日とマスクマン若林)
オープニングトーク→提供読み
 コマーシャル
若林のフリートーク(イタコ)
 コマーシャル
春日のフリートーク(FRYDAYの件で)
 コマーシャル
「チェ・ひろしのコーナー」(特別ゲスト:狙女)

 【十五分の休憩】

バーモント秀樹『傷だらけのローラ』『バーモントカレー』『YMCA』
ビトたけし『浅草キッド
 オードリーとゲストトーク
松本明子『♂×♀×Kiss』(featuring春日俊彰
梅沢富美男『夢芝居』(featuring MC.waka)
 オードリーとゲストトーク
 コマーシャル
「死んでもやめんじゃねぇぞ」
 エンディング
漫才「超能力・イタコ」

イベントの主な内容については各所でテキスト化されているので、そちらを参考にしていただきたい。なにせ私は笑いっぱなしだったもので、内容について、殆ど記憶していないのである。困ったものだ。個人的に一番笑ったのは、松本明子と梅沢富美男スペシャルゲストパート。それぞれのパフォーマンスにオードリーの二人がしっかりと絡んでいたところも含め、最高だった。梅沢富美男のケツバットを生で見られたのは嬉しかったなあ……。ちなみに「コマーシャル」というのは、暗転時に流されたラジオコマーシャル風の音源のこと。宗岡芳樹、Creepy Nuts朝井リョウ、HEY!たくちゃん(with岡田マネージャー)らが声で出演していた。オールナイトニッポンのイベントで堂々と『たまむすび』『ハライチのターン!』の宣伝をしている宗岡氏、誰よりもイカれていたし、イカしていたぞ。

午後八時過ぎ、終演。今回のイベントを鑑賞した人たちとのオフ会に参加するため、近場のイタリアンレストラン「La Fiesta」へ。店内貸し切りだったので驚いた。それから三時間ほど飲み食いする。こういう場になると、どうしても下品でバカバカしい話をしたくなってしまう性分で、オードリーのイベントのことなどそっちのけで、ゴシップトークに興じてしまった。うーむ。宴会が終わったところで解散。また何処かでお会いしたい。

来た道とは逆の道筋を辿るようにして上野駅に舞い戻る。ホテルに戻る途中、シメを食したい衝動に駆られ、「横浜家系ラーメン 壱角家」で油そばを食べる。

f:id:Sugaya:20190302235114j:plain

ホテルに戻って、大浴場で汗を流し、食堂でビールと軟骨の唐揚げを摂取して完全に出来上がり、『オードリーのオールナイトニッポン』を聴きながら就寝。

【三月三日(日)】

午前七時半起床。昨夜のアルコールが脳味噌全体を包み込んでいるような感覚に襲われながら、だらだらと出発の準備を済ませて、午前九時半ごろチェックアウト。生憎の雨。折りたたみ傘を持参したのは正解だった。

京成上野駅のコインロッカーに荷物を預けて、「東京都美術館」へ。伊藤若冲、曽我蕭白歌川国芳らの作品を取り上げた“奇想の系譜展”を鑑賞する……も、集中力が持たず、途中から流し見してしまう。思えば朝から何も食べていなかったのだから仕方がない。

f:id:Sugaya:20190303100624j:plain

美術館を出て、山手線で新宿駅、「名代 箱根そば 本陣店」でたぬきそばを食べ、東京メトロ丸ノ内線新高円寺駅へ移動。

f:id:Sugaya:20190303114011j:plain

水道橋博士セレクトショップ「はかせのみせ」を訪れるためだったのだが、不定休の日に当たったらしく、シャッターが下りている。休みの日は前日に告知しておいてほしい。

f:id:Sugaya:20190303031209j:plain

とはいえ、折角高円寺まで来たので、高円寺駅までぶらぶらと歩くことに。面白そうな居酒屋や雑貨屋、古着屋などを外から眺めて回る。

高円寺駅から中央線で新宿駅、山手線に乗り換えて上野駅まで戻る。午後二時、「麺屋武蔵」で遅めの昼食。以前に食べたときよりも美味しく感じたのは、店のクオリティのせいなのか、それとも此方の体調のせいなのか。

f:id:Sugaya:20190303134839j:plain

食後、少し空いた時間を埋めるために、エッチなお店へ……などと邪な考えが頭を過ぎるが、少し疲労が溜まっていたので、ここは素直に「喫茶室ルノアール 上野しのばず口店」で休憩。少し高めのコーヒーを頼んでみるも、味の違いは分からない。

f:id:Sugaya:20190303142719j:plain

午後三時二十分、京成上野駅からスカイライナーで空港第2ビル駅へ。バスで第3ターミナルに移動し、お土産物を購入する。この時、「高松空港に霧が発生しているので、状況次第では成田空港に引き戻す可能性がある」、という旨のアナウンスが流れる。もしも高松に戻ることが出来なかった場合、便宜上、もう一日だけ東京に居られるということか……と、呑気な考えが頭の中を駆け巡る。荷物検査を受けて、搭乗口へ。午後五時十五分ごろ、飛行機に乗り込む。午後五時四十五分、出航……の予定だったのだが、飛び立つ気配がない。どうも他の旅客機のフライト状況の関連で、出発することが出来ないらしい。

結局、予定より二十分ほど遅れた、午後六時十分ごろに出発。一時間半ほどかけて、午後七時四十五分ごろに高松空港へと到着した。その後、空港の駐車場を出た私は、近場の寿司屋で夕飯を取り、午後十時に帰宅。

f:id:Sugaya:20190303205310j:plain

風呂に入って、『問わず語りの松之丞』を聴き、『乃木坂工事中』を見ながら、この記事を書いている。明日からはまた退屈な日々が始まるが、5周年の東京国際フォーラム、10周年の日本武道館を経験した今、また五年後に行われるであろう何かのために生きていくのだと思えば、幾らか気持ちは楽になる。

無論、それまで番組が続いているかどうか、分かったものではない。だが、きっと続いているだろう、とは思う。そういう信頼感が彼らにはある。隠れてしまった父親も狙っている女も明け透けにトークのネタにして、テレビの世界で着実に安定した地位を築き上げているのに心の中でひっそりと抱いている違和感や不安を率直に吐露してしまう、そんな彼らがラジオを捨てられるわけがないと思っている。少なくとも、リトルトゥースが納得できるような状況にならない限りは。

だから五年後も、ひとつよしなに。

2019年3月の入荷予定

13「お待たせしました祇園のDVDです!
22「サンドウィッチマンライブツアー2018
27「アキナ2

どうも菅家です。今週末はオードリーのラジオイベントのために上京する予定になっています。一泊二日の予定です。他の所へ遊びに行く余裕はなさそうです。折角の東京だというのに。でも、仕方がありません。そういう運命なのです。そんな大袈裟な。それはさておき三月の予定ですが、以上のラインナップとなっております。年に一度のサンドウィッチマン、前作『アキナ』から三年半ぶりのリリースとなるアキナ、そして初のDVDリリースである祇園……祇園って、あんまり名前聞かないんですけど、関西ではそんなに人気あるんですかね。或いは、結成十年目を超え、更なる躍進を期待されているのかもしれません。楽しみにしておこう。

男と女とプーチンとマーチン。


ラーメンズのコントに『プーチンとマーチン』というネタがある。パペット人形のプーチンとマーチンが延々と無軌道な会話を繰り広げるナンセンスコントである。ほぼほぼ会話だけで構成されているネタなので、一見すると、わざわざパペット人形を持ち出さなくても成立するように思えなくもないのだが、会話の随所に【人ならざるものが人のことを無責任に語る】要素を含んでいるので、それが人ではないことを表現するために敢えて人形を使っているのだろう。この『プーチンとマーチン』の中に、こんなやり取りがある。

マーチン「問題!男と女の違いを述べよ」
プーチン「なぐっていいのが男、なぶっていいのが女」
マーチン「かーわいー!」
プーチン「かーわいー!」

これまで、なんとなく聞き流していた、このやり取り。てっきり、ただただ語呂の良い言い回しを並べているだけだと思い込んでいたのだが、本日未明、「このくだりって、社会から男が押しつけられている“男性性”と女が押しつけられている“女性性”を、とてつもなく端的に表しているのではないか?」という考えが自分の中に浮かんできた。ざっくりと説明すると、「なぐっていい」男とは乱暴で投げやりな行為を受けても気にしない男らしい男のこと、「なぶっていい」女とは面白半分に弄ばれても抵抗しない女らしい女のこと、を表しているのではないか?と思ったのである。

無論、だからといって、このコントを演じている二人に対し、また、このコントで笑っている観客に対し、「諸君らは男女差別について何も考えていないからこのようなコントを演じ、このようなコントで笑えるのだ!」などと糾弾するつもりはない。私はむしろ、ここまでシンプルに、しかし如実に、男と女にそれぞれ押しつけられている性のイメージを表現していることが、ただただ単純にスゴいと思う。そして、それを人ならざるものが無責任に無作法に言い放ち、そこに少なからぬ共感の気持ちを抱いている観客たちの心の中にある常識という名の重たい扉をこじ開けているからこそ、このくだりは笑いへと昇華されているのだろう。

要するに、上手いよなあ……。

「上田慎一郎・ふくだみゆきレトロスペクティブ」(2019年2月11日)

二月九日から十一日にかけて行われた【さぬき映画祭】より、十一日にかがわ国際会議場で行われた同イベントに参加してきた。今や『カメラを止めるな!』の監督として知られている上田慎一郎氏と、その妻であるふくだみゆき氏の過去作品の上映会である。一般的には上田作品に対して注目が集まっていたのだろうが、変わり種のアニメーション映画が好きな私は、ふくだ監督によるショートアニメ映画『こんぷれっくす×コンプレックス』の方に興味を惹かれていた。否、もっと言ってしまうと、私は『カメラを止めるな!』のことを世間で評価されているほどに好ましいとは思っていなかったので、上田作品に対する期待は皆無に等しかった。

開場時刻は午後一時半だったが、三十分前には会場前のロビーに到着(あまり訪れることのない場所だったので、早めに家を出たためである)。すると、そこには、あのお馴染みの帽子を被っている上田慎一郎監督が、一般の人とコミュニケーションを取っている。サインを書いたり、写メを撮ったりしている。クリエイターとは思えない、実にフランクな対応である。瞬間、その輪に加わりたい衝動に駆られたが、先述した通り、私は上田監督の作品をさほど評価していないので、そんな自分がサインを求めるのは失礼だろうと思い、一歩引いたところから様子を伺う。そうこうしているうちに開場時刻となったので、チケット(チケットぴあを使って2,000円で購入。)をもぎってもらって中へ。自由席なので中央のあたりの席を陣取る。

午後二時開演。ラインナップは以下の通り。

【Part.1】「上田慎一郎ショートムービーコレクション」
「彼女の告白ランキング」(上田監督/2014年/21分)
ナポリタン」(上田監督/2016年/19分)
「テイク8」(上田監督/2015年/19分)
「Last Wedding Dress」(上田監督/2014年/24分)

【Part.2】「恋愛オムニバス」+「映画 4/猫」からの一本
「こんぷれっくす×コンプレックス」(ふくだ監督/2015年/24分)
「恋する小説家」(上田監督/2011年/40分)
猫まんま」(上田監督/2015年/24分)

【Part.3】「沖縄国際映画祭」出品作品
「耳かきランデブー」(ふくだ監督/2017年/33分)
「たまえのスーパーはらわた」(上田監督/2018年/45分)

結論から言うと、上田慎一郎作品がどれもこれも素晴らしかった。正直、驚いた。『カメラを止めるな!』におけるどんでん返しのロジックを除外した途端に、こんなにもストレートにクリエイターの衝動を肯定する作品になろうとは思わなかった。結婚式場を舞台とした撮影中に女優の父親が押し掛けてくる『テイク8』、ミステリー作家志望の青年の元へ没原稿の主人公がやってくる『恋する小説家』、男女コンビが抱えている苦悩と不安を色濃く浮かび出した『猫まんま』、そしてスプラッター映画好きな女子高生監督の苦悩と成長を描いた『たまえのスーパーはらわた』……どの作品も、クリエイターたちの葛藤と歓喜を見事に表現している。否、恐らく、これらの作品には、上田監督自身の思いが恥ずかしげもなく真っ直ぐに込められているのだろう。だからこそ刺さる。心が揺さぶられる。創作することに疲れた人こそ観るべき作品である。

対して、ふくだみゆき作品は、徹底してフェティッシュ固執していた。男子の腋毛に対して興味津々な女子高生を描いた『こんぷれっくす×コンプレックス』、耳掃除に情熱を燃やしている女性が耳掃除の苦手な男性と出会ってしまう『耳かきランデブー』、どちらも男性の身体の一部に対して、熱い視線を送っている。その姿は笑いに昇華されているけれど、一方で、男性が女性に対してそういう視線を送っているように、女性も男性に対してそういう視線を送ってもいいんだよ、と投げかけているようにも見える。そのような意図があるのかどうかは知れないが、だとすれば、これからの作品の展開に更なる期待を寄せずにはいられない。

なお、各パートの最後に、上田監督・ふくだ監督による軽めのトークイベントが催されたのだが、どのような話をしていたのかはまったく覚えていない。私の記憶力の至らなさにも困ったものである。それと、トークの後の休憩時間には、必ずロビーに上田監督が出て来ていた。どんだけフランクなんだよ!

午後七時十五分ごろ、終演。外に出ると、上田監督とふくだ監督が見送りにロビーへと出て来ていた。さっきまでトークをやっていた人とは思えないフットワークの軽さである。先程までとは打って変わって、上田作品に大いに感動していた私は、ここで最初で最後の固い握手を監督と交わす……つもりだったのだが、生来の恥ずかしがり屋が災いして、ただただ深い会釈を交わすだけで別れることに。情けなや。次こそは、きっと監督と握手しようと固く誓いながら、帰路につく私であった。ああ情けなや。

……それにしても、今回上映された作品、いつかソフト化される日は来るのだろうか。かなり良かったと思うので、手元に置いておきたいのだが。されるといいなあ。

「タスイチ+1」(2018年12月30日)

◎チョコレートプラネット+濱津隆之「ゾンビ」
トレンディエンジェル+DJ KOO「ハゲラッチョ」
ゆりやんレトリィバァ+宮崎謙介「苦労えもん」
ハナコ丸山桂里奈「犬」
バイきんぐ西村+ナイツ「ヤホーで調べました+雑学クイズ」
バイきんぐ小峠+コウメ太夫「即席タスイチ」
さらば青春の光高田延彦「予備校」
和牛+佐戸井けん太「ドライブデート」

司会進行役に和牛と丸山桂里奈。ナレーションに村田秀亮とろサーモン)。

芸人側が「ネタに加入させればもっと面白くなるであろう助っ人」をリクエストして、実際にユニットネタを披露する企画バラエティ。無論、所詮は即席ユニットによるパフォーマンスなので、基本的に元ネタの方が面白かったわけだが、犬を増やすことでシチュエーションに広がりが見えたハナコ丸山桂里奈の『犬』、父親役を増やすことでボケの自由度が上がった和牛と佐戸井けん太の『ドライブデート』に関しては、元ネタに負けず劣らないクオリティを見せていた。思うに、助っ人をネタに上手く溶け込ませられるかどうかが重要なのだろう。その意味では、助っ人をネタそのものに加えるのではなく、漫才を観ているヤバい客としてネタに参加させていた、バイきんぐ西村とナイツの漫才は上手かった(西村のヤバさをもうちょっと引き出してほしかったが……)。

ちなみに、番組の最後に丸山桂里奈が独断と偏見で選んだという“NO.1タスイチ芸人”は、チョコレートプラネット。個人的な印象としては、観客ないし視聴者が『カメラを止めるな!』を観ていることを前提とした内容だったし、なにより濱津の存在意義があんまり感じられない構成だったので、さほど面白いとも思わなかったのだが……まあ、ねえ。

「バナナマンの爆笑ドラゴン 正月場所」(2019年1月4日)

【1stゴング】
ハナコ「空手体験教室」(×)
ダンビラムーチョ「怖いもの」(○)

【2ndゴング】
阿佐ヶ谷姉妹「スーパーマーケット」(○)
チョップリン「張り込み」(×)

【竜の隠し玉 第1対戦】
LOVE「うるさいやつ」(×)
天才ピアニスト「上沼恵美子」(○)

【竜の隠し玉 第2対戦】
メンバー「俺の顔を見ろ」(○)
ダニエルズ「捜査本部」(×)

【Lastゴング】
品川庄司「ドラマ「殉職」」(×)
アンガールズ「事故物件」(○)

司会進行はバナナマンと雨宮萌果(NHKアナウンサー)。複数のお笑い芸人が、漫才チームとコントチームに分かれてネタで競い合う。今回は、漫才チームを品川庄司が、コントチームをアンガールズが、それぞれキャプテンとなってメンバーを選考している。キングオブコント王者のハナコ、THE W優勝者の阿佐ヶ谷姉妹、歌ネタ王のメンバーなど、なかなかに豪華な面々が名を連ねているが、注目どころはやっぱりチョップリン。その独創的な発想から生み出される不可思議なコントは他の追随を許さない。今回はアンガールズが十年前に見て衝撃を受けたというコント『張り込み』を披露していた。

個人的に面白かったのはダンビラムーチョとダニエルズ。ダンビラムーチョは、M-1の予選でも披露していた、正義感の強いおじさんが色々な怖いものに立ち向かう漫才。あの声質、目つき、言い回し、どの要素を切り取ってもザ・おじさんといった風情で、もはやネタよりもあのおじさんが見たい!という気持ちにさせられる。このまま彼ら自身が年を取って、あのキャラクターが素の状態に近づいて来たら、なんだか最強の漫才に仕上がりそうである。一方のダニエルズもキャラクター濃度の強いコント。捜査本部を取り仕切る女性リーダーの堅固な態度に対して、部下の男性刑事が思わず大声をあげて意見したところ、意見そのものではなく、大声をあげたことについて追及され続ける。男性側にも女性側にも適度に言い分があり、また適度に過ちがある、この絶妙なバランス感がたまらなかった。

……ところで、品川庄司はいつまで『殉職』をやり続けるの?

さらば青春の光 単独ライブ『真っ二つ』(2018年9月5日)

2018年4月から9月にかけて、東京・大阪・愛知でのツアーが組まれた単独ライブより、4月15日にCBGKシブゲキ!!で行われた千秋楽公演の模様を収録。構成に渡辺佑欣と廣川祐樹、演出に家城啓之

単独ライブの中止、事務所からの独立、人妻との不倫騒動……さらば青春の光について考えようとするたびに、それらのスキャンダラスなエピソードがリフレインの様に蘇る。致し方のないことだ。どれほど優れた作品を世に送り出した人間であったとしても、大衆は過去の醜聞を忘れはしない。何故ならば、そこに人間を感じるからだ。作り上げられた虚構の向こうに垣間見える、人間としての本質を捉えられるからだ。だが、人の噂も七十五日という言葉の通り、それらは過去の出来事として記憶の彼方へと流れていく。東京03のコントについて語るときに、いつまでもオールスター感謝祭での惨事を持ち出している場合ではないのである。全ては過去の経験となって、生き様へと色濃く反映される。さらば青春の光も、もう間もなく、その段階に突入しようとしている。『真っ二つ』は、そう予感させるに足る傑作だった。

本作は、オープニングコントを含めた八本のコントと、一本の漫才で構成されている。いずれも珠玉の出来である。何度も食い逃げされているラーメン屋の責任が逆に追及される『犯罪の温床』、ガラス戸越しに見える伝統工芸の後継者を志願してやってきた人物が明らかに……『後継者』、火事の現場で活躍している青年の真意とは?『ヒーロー』など、何処を切り取っても捨てるところが見当たらない。余談だが、『ヒーロー』は「キングオブコント2018」の最終決戦に進出した際、披露される予定だったコントだそうだ。丁寧に段階を踏んでいく手法のコントを、如何にして制限時間内に収めようとしていたのか……なんとも気になるところである。

興味深いのは、これらのコントの中に現代的な視点がさりげなく組み込まれている点である。例えば、授業中に呼び出しを受けた生徒に対してお調子者のクラスメートが「万引きバレたんちゃうん!?」と根拠のない無責任な決めつけを言いふらす『ちゃうん!?』は、事件が起きるたびに訳知り顔で根拠のない情報をSNSに垂れ流すことで注目を集めようとしているオピニオンリーダー気取りを彷彿とさせるし、美しい絵画に心を奪われている客に某大手家電量販店の店員のような商人然とした立ち振る舞いで接する『画廊にて』は、当初は2chの書き込みを読み物として大衆向けの娯楽に昇華していた筈がアフィリエイトを目的にアクセス数を稼ぐための煽り記事しか書かなくなってしまったコピペブログのようである。クレーム対策として、とんでもない状態になっているカフェを描いた『カフェリベルタ』のオチなども、自分を棚に上げて他人を追求するネットユーザーの姿そのものに見える。……いや、それは単純に、それぞれがまったく違った行程を経て、人間のみっともなさを突き詰めていったカタチなのかもしれない。

そして、オーラスのコント『十年定食』。これが実に素晴らしかった。その内容は、バラエティ番組を睨み付けるように見つめながら「絶対に売れてやる……!」と息巻いている若手芸人の青年(東ブクロ)と「売れるまではタダで食わせてやる」と約束した定食屋の親父(森田)が、それから十年後のある日、彼に思わぬ話を切り出す……というもの。ありがちな設定、ありがちな展開、ありがちな状況だが、これがまったく思いもよらなかった展開を巻き起こす。これがまた最高に笑えるのだが、一方で、昨今の貧困問題に対してメスを入れているというようにも受け取れる……というのは、流石に深読みが過ぎるというものか。人の気持ちを軽やかに弄ぶ東ブクロのノーデリカシーぶりと、そんな東ブクロに翻弄される哀しみすらも笑いに変える森田のコメディアンぶりが存分に発揮された名作である。是非ともご覧いただきたい。

なお、さらば青春の光は2019年3月から4月にかけて、東京・愛知・大阪の三か所で単独ライブ『大三元』を開催する予定である。『真っ二つ』のおよそ二倍のキャパで臨んでいるとのことで、今後の更なる進展に期待せずにはいられない。

◆本編【105分】

「オープニングコント」「犯罪の温床」「後継者」「ちゃうん!?」「カフェリベルタ」「画廊にて」「漫才(怪談)」「ヒーロー」「十年定食」「エンディングトーク