白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「キングオブコント2018」(2018年9月22日)

【司会】
浜田雅功ダウンタウン
葵わかな

【審査員】
設楽統(バナナマン
日村勇紀バナナマン
三村マサカズ(さまぁ~ず)
大竹一樹(さまぁ~ず)
松本人志ダウンタウン

【大会アンバサダー】
池田美優(みちょぱ)
小峠英二(バイきんぐ)
西村瑞樹(バイきんぐ)

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「バカリズムライブ「ぎ」」(2017年11月22日)

そんなこんなで木曜日である。

この記事が更新されるのは金曜日だが、書いているのは前日の木曜日である。とはいえ、「キングオブコント2018」決勝戦が、もう明後日には開催される。あと二回ほど寝て起きたら、決勝戦当日だ(昼寝を除く)。それに先駆け、つい先日「漫才師が選ぶ“面白すぎて嫉妬した”コント名作選」という事前番組が放送されたらしい。残念ながら、私の住んでいる地域では放送されなかったのだが、聞くところによると、ナイツ、NON STYLEトレンディエンジェルといった人気漫才師たちが、KOC決勝戦で演じられたコントの中から名作を選出する企画だったらしい。

こういう企画が放送されるたびに、「もしも自分が漫才師の側だったら、どのネタを選ぶだろう?」という妄想に駆られる。東京03の『コンビニ』か、キングオブコメディの『教習所』か。かもめんたるの『白い靴下』もいいし、シソンヌの『タクシー』もいい。いや、どうせなら、チャンピオン以外のネタを選びたい。しずるの『能力者』、インパルスの『面接』、モンスターエンジンの『Mr.メタリック』……。記録には残らなかったものの多くの人々の記憶に残ったコントが、頭の中でグルグルと駆け巡っていく。無論、私は漫才師ではないので、このような企画に駆り出されることはない。それなのに、そんな「もしも」について、一生懸命に考えてしまうことがある。

思えば、お笑いファンには色んな「もしも」がまとわりついている。例えば、「もしもあのコンビがキングオブコントに出場していたら」。シティボーイズ、さまぁ~ず、ネプチューン千原兄弟ラーメンズおぎやはぎ……キングオブコントへの出場経験のない芸人たちが、もしも大会に出場していたとしたら、どんなネタを披露し、どんな評価を得ていただろう。そんな「もしも」を考える。「もしもあのコンビが解散しなかったら」。ツインカム底ぬけAIR-LINE、プラスドライバーなど、キングオブコントが開催されるよりも前に解散してしまったユニットが出場していたら。そんな「もしも」を考える。

そして最終的に、一つの「もしも」に辿り着く。「もしもバカリズムがコンビを解消せずに、今でも二人で活動していたとしたら、キングオブコントでどのように評価されていただろうか?」。無論、この疑問に答えは出ないし、今やバカリズムは既に賞レースの枠組みを超えた存在に成っている。だが、だからこそ、そんな「もしも」について考えてしまう。今の彼なら、コンビとしてどんなコントを書いてくれるのだろう?

バカリズムライブ「ぎ」 [DVD]

バカリズムライブ「ぎ」 [DVD]

 

バカリズム升野英知松下敏宏によって1995年に結成されたお笑いコンビだった。「爆笑オンエアバトル」第一回チャンピオン大会出場、「第1回お笑いホープ大賞」決勝進出など、シュールな芸風のコント職人として一定の評価を得るも、2005年に松下の引退を受けてコンビとしての活動を休止。以後、バカリズムは升野のピンでの芸名となる。

同年、『R-1ぐらんぷり2006』に出場。初出場でありながら決勝進出を果たし、フリップネタ『トツギーノ』で総合4位という結果を残す。以後、『爆笑レッドカーペット』『IPPONグランプリ』『人志松本のすべらない話』などの番組に出演、その才能を如何無く発揮している。また、近年では脚本家としての評価も高まっており、2018年には自身が原作・脚本・主演を務めたテレビドラマ『架空OL日記』が「第55回ギャラクシー賞・テレビ部門特別賞」および「第36回向田邦子賞」を受賞している。まさに“天才”と呼ぶにふさわしい八面六臂の活躍ぶりである。本作には、そんなバカリズムが2017年5月17日から20日にかけて、草月ホールで開催した単独ライブの模様が収録されている。

バカリズムといえば「類い稀なる発想力」が評価されているイメージがあるのだが、その点でいえば、本編で演じられているコントはむしろ平凡である。想像していた以上に余命が短いことに驚きを隠せない病人の動揺を描いた『過ぎてゆく時間の中で』、あまりにも長くて回りくどい料理名が淡々と読み上げられていく『難儀と律儀』、派遣型の女王様を自宅に呼び寄せたところ見知らぬ中年の男性がやってくる『六本木の女王』など、着眼点の意味ではさして驚かされるものではない。では、本作は退屈でつまらない内容なのかというと、そうではない。本作において、発想はあくまでもスタートを切るためのきっかけに過ぎず、その設定の上で繰り広げられるコミュニケーションの豊潤さにこそ魅力が詰まっている。思うに、当時『黒い十人の女』『住住』などのドラマの台本を手掛けていた経験が、ここに活かされているのだろう。その舞台には、人間が生きている。流石だな向田邦子賞作家(このライブの時点ではまだ受賞していないが)。

とりわけ印象に残っているのは『志望遊戯』というコント。舞台は高校の教室。教師と生徒と母親による三者面談の場だ。成績が優秀であるにもかかわらず、進学をせずに就職したいという生徒に驚きながらも落ち着いて話を聞きだす教師。「お前、何になりたいんだ?」と教師が質問すると、生徒は靴屋だと答える。「確かにお前は、スニーカーが好きだもんな……うーん、なるほど。じゃあ、ちょっとやってみよう!」。そういうと教師はおもむろに立ち上がり、実在しない靴屋の自動ドアを「ウィン」と開けるのであった。漫才にありがちな、コントのシチュエーションに入るくだりを日常的な風景の中に取り入れたコントで、その違和感が生み出す面白味もさることながら、漫才コント的なネタを教師のキャラクターを演じたまま表現してみせるバカリズムの演技力に舌を巻く。コントの中のコントをそのまま笑えるネタとして演じているスゴさ。たまらない。そして、このコントはある種、「もしもバカリズムがコンビを続けていたら」の一つの答えになっている。否、当然、そんなことは有り得ないのだが……途中からコントに巻き込まれる母親が、だんだんと今はカタギに戻っているあの男の顔に……。

ちなみに、本作にはライブ本編で演じられているコントの他に、幕間映像としてバカリズムメインのアニメーションが収録されているのだが、これらも全て出来が良い。「なにかになること」を夢見て上京する学生がクラスメートに向かって語り続ける『卒業』、区役所に向かうまでの道に関する様々な質問を延々と受け続ける男の『律儀』、とあるテレビドラマに寄せられた批評が読み上げられていく『疑惑の螺旋』など、どのアニメもコントに負けず劣らず面白かったのだが、その中でも、ありとあらゆる事象に対して疑いの目を向ける男がとことんウザったい『疑い男疑う』が揺るぎない名作である。これのために本作を鑑賞しても良いというぐらいに面白かった。是非ともご覧いただきたい。

ちなみに、バカリズムは新作『バカリズムライブ「ドラマチック」』を2018年11月28日をリリースする予定である。向田邦子賞受賞後の彼がどんな舞台を構築したのか、今から確認するのが楽しみだ。いやホント。

■本編【104分】

「プロローグ」「オープニング」「過ぎてゆく時間の中で」「ギガ」「難儀と律儀」「銀」「ふしぎ」「卒業」「の?」「律儀」「六本木の女王」「疑惑の螺旋」「志望遊戯」「疑い男疑う」「疑、義、儀」「エンディング」「エピローグ」

「ラバーガールLIVE「大水が出た!」」(2016年10月26日)

2016年8月17日・18日に座・高円寺2で行われた単独ライブを収録。

近年、「シティボーイズミックス」「男子はだまってなさいよ!」などの舞台を手掛けてきた細川徹を作・演出に迎えたライブ【ラバーガール solo live+】を行ってきたラバーガールだが、本公演では四年ぶりに二人だけで作り上げたコントが披露されている。そのためか、ここ数年の公演にほんのりと漂っていた哀愁のようなものが、本作からはすっかり失われている。残されているのは、純然たるナンセンスな笑いだけだ。この点をどう評価するかは、好みによって分かれるところだろう。私は正直なところ、細川徹演出も嫌いじゃないので、初見時には少しだけ物足りなさを感じてしまった。だが、しばらく時を置いて、改めて本作を鑑賞して見たとき、その揺るぎない狂気性に気付かされた。はっきり言って、本編のコントに登場する大水は、どいつもこいつも危うい。人間として根本的な部分が欠落したヤバさがある。

その傾向は、オープニングコント『大水が出た!』の時点で、早くも顕著に表れている。夜中に「大水が出たぞーっ!」と叫びながら、飛永の家を訪れる大水。ここでいう「大水」とは、比喩でも便宜上の表現でもない、純粋な「大水」である。自分が、自分の家に、自分が出てきたから、慌てながら「大水が出たぞーっ!」と叫んでいるのである。真夜中に。実にヤバい。そんな大水の相手をしてあげている飛永のなんと優しいことか。しかし、このコントの真の恐ろしさは、お互いに何も進展しないところにある。大水が自身の間違いに気付くこともなければ、よりヤバくなることもない。ただ、純粋無垢にヤバい大水が、「大水が出た!」と伝えるためだけに飛永の家を訪れ、そして去っていくだけである。何のストーリーもない。だからヤバい。

以降のコントも揺るぎなくヤバい。値段が“時価”の寿司屋を訪れた飛永が、お会計の際に提示された金額に驚かされる『時価の店』は、とにかくオチがヤバい。オチに至るまでの行程もそれなりにヤバいのだが、最後の最後に発せられる、大水演じる寿司屋の大将の呟きの悪意の無さがヤバい。あまりにも自然に気持ちを声に出しているので、余計にヤバさが引き立っている。ハワイ旅行の準備をしていた大水が、出発の予定日を勘違いしていたことが発覚する『ハワイ旅行』は、それでもまったく動じずに、その勘違いすらも旅行の醍醐味として楽しもうとする大水の感覚がヤバい。もとい、全体を通して、どうして大水がハワイ旅行に出かけようとしているのか、その理由がまったく分からない。通常、旅行というのは、行きたいから行くのではないのか。旅先ならではの場所やお店を巡ることに喜びを覚えるものではないのか。それなのに、大水はハワイでの時間の大半をホテルで過ごし、食事をココイチ丸亀製麺で済ませようとしている。ある意味、大物感があるということなのか。どうなのか。いずれにせよヤバい。

これらのネタの中でも、とりわけヤバさが引き立っていたのが『レビュアー』。グルメ雑誌のコーナーで取り上げられることになった、食べログの人気レビュアー・大水。それに伴い、雑誌の記者(飛永)からインタビューを受けるのだが、「金銭的に大変だったりしませんか?」という記者の質問に対し、大水は驚くべき回答を提示する。他のコントに登場する大水は、あまりにも現実離れし過ぎしていて、ちゃんと笑いを生み出す存在として描かれているのに対し、このコントに登場する大水はリアルにヤバい。何がヤバいって、こういう人が実際に食べログに居そうなところがヤバい。否、食べログどころか、ありとあらゆるSNSに存在していそうなところがヤバい。その行為に悪意も何もなく、本当に読者のためだけを考えているというあたりもヤバい。金銭や自己顕示欲を目的としていないところがマジでヤバい。でも、そういう人もやっぱり、今の時代のインターネットの世界には何人も居そうな気がする。うーむ。ヤバいというか、もはやコワい。

ただ、ラバーガールの真のヤバさが最も表れているのは、オーラスのコント『結婚』だ。結婚式を明日に控えている新郎の飛永と友人の大水が、式当日のことをざっくりと話し合っているのだが、その内容は常に何処かが間違っていて、なのにどちらもツッコミを入れようとせず、延々とボケだけが積み重ねられていく。単独ライブのオーラスのネタといえば、ちょっとドラマティックで人情味溢れるストーリーを構築した長尺コントになりがちだが、ここでラバーガールはツッコミ不在のボケフルスロットルコントを演じている。ボケとツッコミの組み合わせの方が間違いなく安定して面白いコントになる筈なのに、敢えてそれを選ばない。このコント師としての姿勢がヤバい。素晴らしい。こういう、一見するとスタイリッシュだけれど、実はコント師としての芯の強さがあることを見せつけられると、なんだかとても嬉しくなってしまうのは私だけだろうか。私だけか。うむ。

……と、いうわけで、水曜日である。記事が更新されるのは木曜日だろうが、書いているのは前日の水曜日である。今回、過去三回と違う構成の文章になったのは、以前に書こうとして頓挫していた本作のレビューの書きかけ文が残っていたためだ。導入だけ書いていたため、そこを残して、後半部分を一気に書き殴った。いつも文章の導入部分に頭を悩ましているので、今回はとても楽に書けた。ありがとう、当時の私。

ちなみに、ラバーガールは既に新作『ラバーガールLIVE「シャンシャン」』をリリースしている。こちらもいずれレビューしたいと思っているのだが、果たしていつになることやら。

■本編【82分】

「大水が出た!」「時価の店」「クイズ!何のお寿司を食べたでSHOW!」「引っ越し」「眠い」「ハワイ旅行」「MCバトル」「アハ体験」「レビュアー」「聞いてくれよ」「夢」「結婚」

■音声特典

ラバーガールによる副音声コメンタリー

「第19回 東京03単独公演「自己泥酔」」(2018年2月21日)

そして火曜日である。

前回と同様、水曜日に更新をしているが、この記事を書いているのは前日の火曜日である。三連休明けの労働というのは想像していた以上に心身に応えるもので、つい先週の金曜日までこなしていた筈の作業を終えたところで、激しい疲労感によって、すっかり気持ちが落ち込んでしまった。それでも、土曜日に放送される『キングオブコント2018』決勝戦のことを考えて、なんとか生きていこうと頑張って立ち上がっている次第である。……なにやら無闇にドラマチックな表現を採用してしまったが、所詮は単なる連休ボケでしかない。誰からも同情されることのないまま、今週もなんとかかんとか消化試合的に乗り切っていくしかないのである。やれやれ。

ところで先日、書店で『夫のちんぽが入らない』の講談社文庫版を見つけた。既に扶桑社から出ている単行本を所持していたのだが、文庫用に書き下ろしたエッセイが収録されているということだったので、特に損得を考えずに購入した。否、厳密にいえば、それは応援の意味合いが強かった。

『夫のちんぽが入らない』の筆者であるこだまさんと知り合いだったからだ。お会いしたことはない。インターネットを通じて、お互いに名前を知っていて、お互いの文章を知っているという程度の仲だ。私がこだまさんのことを知ったのは、今から十年ほど前になるだろうか。とある大喜利サイトの参加者の一人として、こだまさんは居た。当時、こだまさんは“しりこだま”という名前で、大喜利に参加していた。妖怪好きな私は、その河童を連想せざるを得ないハンドルネームに、妙な魅力を感じたものである。

その後、何かのきっかけで、こだまさんのブログを読むようになった。これがべらぼうに面白かった。美しい景色の奥底の見えないところに無様な感情の杭が刺さっているかのような、一筋縄ではいかない文章だった。この人の文章は多くの人に読まれなくてはならない。一読して、そう思った。

しばらくして、こだまさんと疎遠になった私は、彼女とTwitterで再会し、主婦業と文筆業を平行して続けていることを知った。ああ、やはり秀でた才能は、何処かしらかで芽を出す運命にあるのだ。そう思った私は、単行本出版の折に「お会いした日には是非とも寿司を奢れ」と冗談交じりにリプライを送った。「わかりました」と返事を貰った。彼女が売れるたびに、私が奢ってもらえるであろう寿司のグレードも着実に上がっているに違いない。最終地点は銀座だ。久兵衛だ。だから、もっと売れて、もっと多くの人に読まれる物書きになってもらいたいと思う。皆も読もうぜ。漫画版もあるぞ。

それはそれとして今回は『東京03単独公演「自己泥酔」』である。

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

 

東京03飯塚悟志豊本明長角田晃広の三人によって2003年に結成されたコントユニットである。飯塚・豊本が“アルファルファ”というコンビで活動していたところに、お笑いトリオ“プラスドライバー”のメンバーだった角田が参加、新トリオ結成ということになった。ちなみに、飯塚はスクールJCA2期生(同期にアンジャッシュ渡部、ダンディ坂野ユリオカ超特Q)、豊本はスクールJCA3期生(同期にアンタッチャブル)にあたる。キングオブコントには2008年から参戦。2009年に初の決勝進出を果たし、M-1王者でもあるサンドウィッチマンと死闘を繰り広げ、紙一重で優勝をもぎ取った。翌年の2010年から単独公演による全国ツアーを開始。以後、単独公演が行われる度にツアーが組まれ、全国のファンから好評を博している。本作には、2017年5月から9月にかけて全国11か所で開催されたライブより、東京での追加公演の模様が収録されている。

演じられているネタは全七本。全てコントである。

とあるインタビューで飯塚が本作のことを「最高傑作」と語っていたように、どのネタも大変にクオリティが高い。例えばオープニングコントの『自慢話の話』からして見どころが満載だ。二人の部下とともに居酒屋で呑んでいた会社の社長(角田)が、以前に参加したパーティで他の会社の経営者から自慢話ばかり聞かされた……という話を持ち出して、「もし俺が下らない自慢話を始めたら注意してくれ」と二人に頼んだところ、そのうちの一人(豊本)に「今の、自慢話をしない俺、自慢ですよね?」と切り返されてしまい……。オープニングコントにしては、あまりにも深みのある設定ではないだろうか。確かに、豊本の言うように、このコントにおいて角田は自慢話をしない自分に酔っていると捉えることも出来る。だが、それを指摘している豊本もまた、そんな風に上司に物怖じせずに突っ込める自身に酔っているのでは?との指摘を受ける。一体、自慢とは、酔っているとは、どういうことなのか……。そんなことを改めて考えさせられるコントだった。オープニングコントのレベルじゃない。

その後も名作が続く。部下(豊本)の失態の責任を被ったエリアリーダー(角田)だったが、当の部下はというと……『エリアリーダー』は、コントが転がり始める瞬間がとにかく素晴らしいコント。飯塚演じる部長から激しい叱責を受ける豊本がエリアリーダーである角田によって庇われるまでの展開がとことんシリアスで、だからこそ、突如として放り込まれる豊本の信じられない台詞の起爆力がとんでもない。高い演技力があってこそ成立させられるネタといえるだろう。

東京03のコントにはお馴染みのトヨ美が登場する『小芝居』も名作だ。直属の上司である主任(豊本)と二年に渡って職場恋愛をしていた角田が、とうとう結婚する。以前より、角田の恋愛相談に乗ってあげていた飯塚は、二人から結婚報告を受けることに。しかし、職場の人間に知られると業務に支障が出るからと角田には黙っているように伝えていた主任は、今でも角田が飯塚に恋愛相談していたことを知らない。そこで飯塚は、角田から「俺たちから報告を受けるまで、二人が付き合っていることも、結婚することも、まったく知らなかった……という芝居をしてほしい」と頼まれる。誰かが誰かに隠し事をするという展開はそれだけで緊張感を伴うものだが、このコントはそれを見事に笑いへと昇華している。まさしく緊張と緩和だ。……そして、終盤で明かされる、とんでもない真実。多くの観客をどよめかせる展開の後で、このコントのタイトルを思い返すと、実に味わい深い。

しかし、本作を代表するコントといえば、やはり『トヨモトのアレ』だろう。会社の休憩所で落ち込んでいる豊本に遭遇する二人。仕事も私生活も順風満帆だった豊本だが、浮気相手によってLINEの内容が会社のパソコンに流出させられたからだ。興味本位で豊本から話を聞く二人だったが、角田の質問内容にほのかな違和感が……。コントそのものの仕掛けはベタだが、あの時期、あのタイミングで、豊本のゴシップをきちんと一本のネタとして昇華してしまえる底力。当たり前のようでいて、とんでもないことをしている。それでいて、いわゆる浮気における「反省」への考察も表れていて、その点も非常に興味深かった。結果として、豊本のゴシップは東京03というユニットの対応力の強さを知らしめるきっかけとなったのでは。

一点、惜しいと感じてしまったのは、オーラスの長尺コント『謝ろうとした日』のワンシーン。かつて、親友の角田に暴言を吐いてしまい、それから三年に渡って絶交していた豊本が、飯塚の助けを借りて角田に謝罪しようとするのだが、あまりにもハイセンスな豊本の服装は謝罪には向いてなくて……。コントの展開そのものは悪くないのだが、とあるシーンで飯塚が放つ台詞があまりにも名台詞感を意識し過ぎていて、ちょっとそれまでの流れから逸脱しているように感じられた。あまりにも唐突に感じられたので、ことによると、私の読解力に問題があるのかもしれないが……どうなんだろうな、あれは。

これら本編に加え、特典映像としてバカリズムラバーガール大水をゲストに迎え、四人で様々なスタイルのショートコントを披露する『「自己泥酔」特別追加公演 ショートコントを考える。』が収録されている。単に東京03のショートコントを創作するわけではなく、ショートコントらしさを模索した内容になっており、昨今のショートコント不足問題について改めて考えさせられた。……どうでもいいけど、このテーマだったらゲストに江戸むらさきを召喚しなかったら嘘だよなあ……もう活動休止しちゃったけど……。

ちなみに、東京03は現在「東京03 第20回単独公演「不自然体」」のツアーを敢行中だ。既にチケットは完売しているようだが(当日券があるかもしれない)、10月13日に全国26か所の映画館でライブビューイングが行われるとのこと。特別追加公演の模様も中継されると思うので、気になる方は是非。

■本編【118分】

「キャスト紹介「自分酔いのピアノ」」「自慢話の話」「オープニング曲「自己泥酔で歌いたい」」「エリアリーダー」「えりありーだー憧れられ四十八手」「トヨモトのアレ」「トヨモトの反省」「ステーキハウスにて」「Minimum Reaction Girl - MMR」「小芝居」「劇団小芝居」「悲しい嘘」「私、嘘をつきます」「謝ろうとした日」「エンディング曲「誰にも言えないんだけど…」」

■特典映像【62分】

「「自己泥酔」特別追加公演 ショートコントを考える。」

 ゲスト:バカリズム公演

 ゲスト:ラバーガール大水公演

■音声特典

東京03による副音声コメンタリー」

「天竺鼠5」(2017年2月22日)

明けて月曜日である。

『さらば青春の光「会心の一撃」』のレビューを月曜日に公開したので、この記事が更新されるのは翌日の火曜日になるだろうが、この記事を書いているのは月曜日である。月曜日といえば、多くの学生・社会人が絶望の淵に立たされる曜日として知られているが、本日は敬老の日なので悠々自適に過ごしている。要するに自宅でゴロゴロしている。年寄りを敬う素振りも見せない。困ったものだ。

とはいえ、何もせずに時間だけを潰すというのはあまりにも無為なので、つい先ほどまでradikoのタイムフリー機能を使って、前日深夜に放送された『中島みゆきオールナイトニッポン月イチ』を聴いていた。最終回である。2013年6月に番組をスタートしてから五年以上に渡って放送されていた。毎回、中島みゆきほどの大ベテランが、本来ならば放送設備のメンテナンスを行う日曜の午前三時から午前五時までの枠を、月に一度のペースとはいえ毎回生放送でお送りしていた。

その喋りのトーンは至って能天気だが、諸般の事情により日曜深夜から働いている人を応援する「働きながら聴いてます!」、今週の失敗できない予定をリスナーから募集する「今週のヤマ場」、リスナーのネガティブな近況を川柳にして送ってもらう「ネガティブ川柳」など、その内容は厳しい状況に置かれている人たちへの優しさに満ち溢れていた。そこには『ファイト!』の時代から続いている、とはいえ当時とは違ったカタチで「しんどい」と叫べない人たちへのエールが込められている。いずれまた、そんな番組を始めてくれる日を、或いは、そんなスタイルを引き継いでくれる人が現れる日を、待ち続けたいと思う。既にどっかで始まっているのかもしれないが。

……と、そんな流れは一切無視して、今回は『天竺鼠5』を取り上げる。

天竺鼠川原克己瀬下豊によって2003年に結成されたお笑いコンビである。鹿児島県にある別々の高校の野球部員として知り合った二人は、高校卒業後にお笑い芸人になるため大阪へと引っ越し、よしもとのお笑い養成所・NSC大阪校に入学する。同期には和牛、藤崎マーケットかまいたち山名文和(アキナ)、八十島(2700)、バイク川崎バイクなどがいる。

キングオブコントには2008年より参戦。同年、決勝進出を果たすも、予選リーグ全体で八組中六位という厳しい結果に終わる。翌年の2009年にもファイナリストに選出されたが(二年連続での決勝進出は彼らのみ)、こちらも総合七位と振るわない結果に終わる。しかし、三度目の決勝進出を決めた2013年、下校途中の小学生の前に寿司が現れてダンスを披露するシュールなコントが評価され、総合三位という結果に。現在、関西発のアヴァンギャルドな芸人として、その存在を主張している。ちなみに、天竺鼠は今年のキングオブコントにも参戦しているのだが、準々決勝敗退という憂き目を見ている。昨年大会も同様の結果に終わっていたので、コント師としてはやや調子が落ちてきているのかもしれない。

本編は二部構成になっている。

前半パートには2016年12月9日にルミネtheよしもとで行われたネタライブ「天竺鼠のDVD収録LIVE」の模様が収められている。演じられているネタは全九本。うち八本がコント、一本が漫才という内訳になっている。

コントの中には、賞レースで披露されているネタも幾つか。例えば、肥大したリーゼント・スタイルを決めた不良風の学生と落ち着いた老教師のやり取りが妙に微笑ましい『学校』は、「第35回ABCお笑いグランプリ」で優勝を決めたネタだ。口の悪い不良学生が、実は……というギャップだけで最後まで突っ切っている骨太なコントである。老人が務めているコンビニに老人が来店する『コンビニ』は、「キングオブコント2009」決勝戦で二本目に披露されたネタだ。老化による身体能力と判断力の低下が巻き起こすコミュニケーションの歪みで笑いを巻き起こしたかと思えば、終盤で予想外の展開を迎える。緩急のスリリングさがたまらない名作である。また、先述の「キングオブコント2013」で披露されたお寿司のコントも、『帰り道』というタイトルで収録されている。味の好き嫌いに素直な子どもに振り回される寿司ネタの悲哀が、なんともいえない味わいを生み出している。

これらのネタも非常に魅力的だったのだが、ライブパートの最後に収録されている『天竺鼠のコーナー』はそれらに匹敵する面白さ。ゲストに“川原がお世話になっている先輩”ピース又吉と“川原がお世話になっていない先輩”ダイアン津田を迎え、そこに瀬下を加えた三人で川原考案のゲームで戦う企画なのだが、「目隠し たたいてかぶってじゃんけんぽん」などのトリッキーなゲームの内容もさることながら、ゲームに対するゲストの又吉・津田のスタンスの違いが絶妙な面白さを生み出していた。ゲーム進行中は意外とボケない川原の場を弁えた立ち振る舞いも見どころだ(津田に対する当たりはずっと強いのだが)。

対して、後半パートには、本作のために撮り下ろされた映像コントが収録されている。真っ白なスタジオの中で撮影された『ショートコント』、トルコアイス屋の店員がなかなかアイスを渡そうとしないしつこさがクセになるロケコント『トルコアイス』、破壊王の異名を持つ瀬下が複数の罰ゲームを一気に受けて罰ゲームランキングを作成する『破壊王瀬下』など、観客のリアクションのない状態で繰り広げられる映像は、通常のコントとはまた違った、ペーソス感に満ちた後味を残してくれる。とりわけオーラスのお蔵入りコントの映像は、最後に登場する先輩芸人のビジュアルと状況のギャップが……たまらなかった。

最後に余談。本作は『天竺鼠5』というタイトルなのだが、これは彼らにとって三枚目の単独作品である。更にいえば、2009年10月にリリースされた第一弾のタイトルは『天竺鼠2』、2010年10月にリリースされた第二弾のタイトルは『天竺鼠4』である。とてもややこしいので、暇な人は勝手に『天竺鼠1』と『天竺鼠3』のパッケージを自作して、一緒に陳列すればいいのではないかと思う。うん。

■本編【150分】

「修理屋」「お見舞い」「学校」「コンビニ」「Bar」「F-1学生」「帰り道」「漫才」「家族」「天竺鼠のコーナー(ゲスト:ダイアン津田/ピース又吉)」「ショートコント」「トルコアイス」「ナスビくん」「スナック」「破壊王瀬下」「コント中にケンカ勃発! お蔵入りの瞬間をカメラはとらえていた!」

■特典映像【24分】

「飛車角新郎新婦エクササイズ」「アニメーション「向こう側」」「アニメーション「四分音符」」「インタビュー」

「さらば青春の光単独公演「会心の一撃」」(2017年9月20日)

キングオブコント2018」決勝戦まで残り一週間を切っている。

それなのに気持ちがあまり盛り上がらないのは、ファイナリストが未だに発表されていないからだ。今回、ファイナリストは決勝当日、それも出番と同時に発表されるシステムになっているらしい。そして現在、ファイナリストを的中させるクイズ企画が行われている。見事正解した人には、新MCの葵わかな、大会の公式アンバサダーである池田美優(みちょぱ)とバイきんぐ、そしてファイナリスト十組のサインが入ったTシャツがプレゼントされるらしい。若手芸人にとっては今後の人生の方向性が変わるかもしれない重大なイベントなのに、よくもこんなバカバカしい企画を通せたものである。

おそらくは視聴率対策なのだろう。「M-1グランプリ」「R-1ぐらんぷり」に比べて、キングオブコントの視聴率は格段に低い。それでも、2015年に決勝戦の審査方式を“準決勝敗退者による採点”から“ベテラン芸人五人による採点”へと変更してからは、それなりに数字を稼いでいた。ところが、2017年に再び数字が落ち込んだ。このままだと大会終了は必至だろう。どんな手段を使っても、視聴率を稼がなくてはならない……と、そのような事情があったのではないかと推測されるのだが、それにしても、もうちょっと真っ当な対策を取れなかったのだろうか。M-1にせよ、R-1にせよ、ここまで大会参加者をダシにするような企画は打ち出さなかったし、そもそもファイナリストを隠すことで本当に視聴率が上がるのかもよく分からない。少なくとも、現時点では固定視聴者である筈の多くのお笑いファンから顰蹙を買っていて、あまり状況は良い方向に転がっているとは思えないのだが……。

とりあえず、大会ファンの一人としては、ファイナリストが明かされないままの状況でも、決勝戦当日にはそれなりの心構えでもって望みたいと思っている。そこで、それまでコントのDVDを見続けて、コントに対するモチベーションを高めることにした。なんとか一日一枚は消化していきたいと考えているが……無理な気がしないでもない。

今回は『さらば青春の光単独公演「会心の一撃」』である。

さらば青春の光は、森田哲矢東口宜隆(芸名:東ブクロ)によって、2008年に結成されたお笑いコンビである。それぞれ“カサブランカ”“ヤンバルクイナ”というコンビで活動していたが、2008年に解散。「キングオブコント2008」への出場を目的に結成された。2012年に初の決勝進出。そこで披露されたコント『公園』の台詞「イタトン」が話題となり、注目を集め始める。しかし、翌年の2013年に、当時の所属事務所である松竹芸能との契約が解除され、フリーとしての活動を余儀なくされてしまう。同年、何処の事務所にも入れなかったため、個人事務所ザ・森東を立ち上げる。ちなみに、その後もキングオブコントには出場し続け、累計五度の決勝進出を果たしている。2016年には「M-1グランプリ」決勝に進出、高い評価を受けるも四位で予選敗退となる。本作には2017年4月26日・27日に池袋あうるすぽっとで行われたライブの模様を収録。彼らの単独作品がソフト化されて一般に流通するのは、松竹芸能時代にリリースされた『さらば青春の光「なにわナンバー」』(2011年10月リリース)以来、およそ六年ぶりのこととなる(自主制作盤である『帰社』『野良野良野良』は除く)。

演じられているネタは全九本。うち一本がオープニングコント、うち一本が漫才、残りの七本がコントという内訳になっている。リリースから日が経っていることもあって、既にテレビ番組で演じられているところを観た記憶のあるネタも少なくない。

例えば『居酒屋』は「キングオブコント2017」決勝のステージで披露されたコントだ。居酒屋に来て、一人で呑んでいるサラリーマン(森田)の元へ、店員(東ブクロ)が注文していない料理を間違えて持ってきてしまう。一度は突き返すのだが、その料理があまりに美味しそうだったので、思わず追加注文してしまう。すると、また店員が今度は別の料理を間違えて持ってきて……。単なる店員のオーダーミスに独自の手法を見出す着眼点だけでも十分に面白いのに、その手法そのものは変えずにパターンを変えることで、注文もコントもどんどん転がっていく気持ちよさ。「ライブ感」「撒き餌」「返しのポテサラ」などのワードも手伝って、最後まで飽きさせない。しかし、改めて視聴してみると、大会で披露された短縮バージョンよりも、本編で演じられている長尺バージョンの方が、圧倒的に出来が良い。当時、彼らのコントに魅了された人に、是非ともご覧いただきたい一本である。

『小説家』は芸人が作ったネタを俳優が演じる番組「笑×演」(2017年3月30日放送)において、木村了前川泰之が演じていたコントのセルフカバーだ。カフェで新作の執筆作業に取り掛かっていた小説家(森田)が、隣の席で作品のファンだという青年(東ブクロ)が自著を速読で次々に読破していく姿を目の当たりにする。さらばは以前にも速読をテーマにしたコントを作っているが(うしろシティとの共作『cafeと喫茶店』に収録されている)、それとはまったく違ったアプローチで新しいネタを作り上げていることに驚かざるを得ない。速読という手法でありながらもしっかりと作品の内容を読み込めている青年に対して、長い時間を費やして執筆した作品を次々に数秒で消化されてしまうことに複雑な心境に陥っている作家の困惑と苛立ちがたまらなく可笑しかった。

『金メダリスト』はおぎやはぎがメインを務めたお笑い番組「真夏のお笑い夜通しフェス どぅっかん!どぅっかん!」(2017年8月12日放送)で披露されていたコント。金メダルを獲った水泳選手(森田)が記者会見を受けているのだが、喜びの声を聞きだしたい記者(東ブクロ)の思惑に反し「割に合わないですねえ……」とコメントし始めて……。金メダルを獲ったことの喜びよりも、金メダルを獲るために重ねてきた辛さの方が勝ってしまっているメダリストの姿は、これが演じられた当時であれば素直に笑えたのかもしれないが、スポーツ選手たちのパワハラが話題になっている昨今においてはむしろリアルで、本来の意図とは違う意味での面白さが表出している。……むしろ、あえて今こそ演じられるべきコントなのかもしれない。

以上の三本はやはり突出して面白かったように思う。

これらのネタ以外で印象に残っているのは『予備校』というコント。頭に鉢巻を撒いて生徒たちに檄を飛ばしている教師(森田)と、それを物静かに見守っているもう一人の教師(東ブクロ)。しばらく生徒たちを鼓舞したところで、森田教師が驚きの行動に……。ここから、このコントの感想を書きたいところだったのだが、どうも聞くところによると、「キングオブコント2018」準決勝において、このネタが演じられたらしいので、ここの感想は割愛する。恐らく、本作も大会終了後に観た方がいいのだろう。彼らが決勝進出しているかどうかは、現時点では分からないが。六度目の決勝進出を果たし、最多決勝進出回数を更新できるかどうか、全ての答えは2018年9月22日の決勝日に明らかとなる……。

そんなさらば青春の光だが、既に新作『さらば青春の光 単独LIVE『真っ二つ』』がリリースされている。こちらもいずれレビューしたいところ。

■本編【102分】

「オープニングコント」「医学部」「気絶」「小説家」「金メダリスト」「漫才(童話の原作)」「予備校」「居酒屋」「葬式」「エンディングトーク

「シソンヌライブ[six]」(2018年2月14日)

世界は“二元論”に溢れている。

体罰は良いか悪いか、表現規制は良いか悪いか、原子力発電所は良いか悪いか……パソコンやスマートフォンの電源を入れれば、そこでは数多のテーマによる二元論がぶつかり合っている。大勢の人たちの頭の中で、正義と悪の構図が描かれている。だが、果たして、人間の社会はそれほど簡単に白と黒で区分させられるものだろうか。それらの多くにはメリットとデメリットがある。白と黒の間にある灰色のゾーンを、私たちは些かおざなりにし過ぎているのではないだろうか。

キングオブコント2014」王者であるシソンヌが、2017年4月5日から9日にかけて下北沢本多劇場で開催した単独ライブでは、そんな灰色のゾーン……いわゆる“狭間”が主に描かれている。

オープニングコントの『婚活パーティー』には二人の男女が登場する。婚活パーティーで話し相手を見つけられずにまごまごしている老年の男性・コヅカ(長谷川)と、大きな泣き声をあげながら歩いている美女・トシコ(じろう)である。挙動不審に独特なテンポで喋り続けるトシコは、とてもコミカルで魅力的なキャラクターだ。ちょっとした所作から泣き声、激しいリアクションに至るまで、見事な表現力でコント全体を引っ張っている。このコントはトシコというキャラクターが存在しなければ成立しなかったと言ってもいいだろう。だが、彼女が泣いている理由を思うと、このコントがただ笑えるだけのネタではないことが分かる。

生命保険のセールスをしているトシコは、高齢者を多く担当している。その中には亡くなられている方も少なくないらしい。その経験から、年配の人を見ると「私よりも先に……」と思うようになってしまい、高齢者が多い場所では涙が止まらなくなってしまうのだという。そんなトシコは、コヅカのことを見ていても、涙が止まらなくなってしまう。コヅカもまたトシコよりもずっと年上だからだ。婚活パーティーという人生のパートナーを探す場所で、遠くない未来に訪れるだろう死を予見し、涙する。まさに彼女は「生」と「死」の狭間で揺れ動いている。

その後のコントも、同様に“狭間”が重要なテーマになっている。

毎回、単独ライブに登場している野村くんが、五限目の授業を休んで保健室で眠っていたときに見た夢の件で担任の長谷川先生と不思議な議論を重ねる『野村くんの夢』。当初、明らかに夢と現実がごちゃまぜになってしまっている野村くんの言い分だったが、その内容が現実と不思議な合致を見せるようになり、観ている者の頭の中では、もはやどちらが夢でどちらが現実なのかが曖昧になってしまう。その瞬間、観客は「現実」と「夢」の狭間にいる。

アメリカを旅行中の中年男性が、現地で日本的なものに遭遇し、それに積極的に触れに行こうとすると、謎の罠が発動する『Japanese Ojisan』には、アメリカに来たのだから日本のことを忘れてアメリカを満喫してほしい……と主張する謎の少年が登場する。アメリカ旅行という「非日常」の中にいるうちは、日本という「日常」を忘れてほしい……と。それなのに、中年男性は日本の物を見つけるたびに、ついつい反応してしまう。その瞬間、彼は「非日常」と「日常」の狭間にいる。

あまりにも赤ちゃんの我が子が可愛い過ぎるので、実家の父親を呼び出し、「自分には可愛い赤ちゃんの時代がなかった」「どこかで入れ替わったのではないか」と話し始める『父へ』は、「乳児」と「青年」の狭間をテーマとしたコントだ。突拍子もない話を切り出すじろう演じる赤ちゃんの父親の言動はひたすらに非現実的だが、それは反面、子どもが大人になる過程において、当事者ではなく温かい目で見つめなくてはならない側が抱いている不安を描いているといえるのかもしれない。成長を見守ることの難しさを表しているのかもしれない。

……と、ここまでマジメに幾つかのコントについて解説してきたが、最後の最後に、これらの考察がどうでも良くなるコントが始まる。『サ裸リーマン』である。仕事中のふとしたきっかけで裸になることに快感を覚えるようになった会社員・大河原が、計画的に“仕事場で裸”の状態になろうとするコントだ。ここで描かれているのは、通常の「サラリーマン」から裸のサラリーマン「サ裸リーマン」へと変貌を遂げようとする男の生きざまである。揺れ動くどころか、真っ直ぐに突っ走っている。そこには何の混じりっ気もない。だが、だからこそ、終盤の予想外の展開に驚かされる。「サラリーマン」と「サ裸リーマン」の狭間にいたのは、実は……。

今日もインターネットの世界を覗くと、様々な二元論が展開している。それぞれの人がそれぞれの正義感の元に、悪である相手を殴ろうと躍起になっている。その狭間で、どちらの立場を取るべきか苦悶する姿は、みっともないように見えるかもしれない。だが、狭間を侮ってはならない。そこには、白か黒かの立場にある人たちには理解できないような、苦悶のドラマが起こっているかもしれないのだぞ。

■本編【98分】

「婚活パーティー」「野村くんの夢」「Japanese Ojisan」「父へ」「ボクシングジムに通いたいけど」「同居人の」「サ裸リーマン」

■特典音声

「シソンヌライブ[six]」オーディオコメンタリー

■特典映像

シソンヌライブ[deux]より「タクシー(location ver.)」

「第二十回 東京03単独公演 不自然体 岡山公演」(2018年9月8日)

今年も東京03が岡山に来るというので、観に行く。

東京03の単独公演が全国ツアーを展開するようになって、今年で九年目。当初はまったく観客が入らなかったという話だが、それが今では、地方公演のチケットも即日完売になるほどの人気を博している。ファンとしては嬉しい悲鳴を上げるべきなのだろうが、一方で、そろそろ公演のチケットを獲り逃がしてしまうのではないかと危惧するところでもある。事実、今回の公演のチケットも、なんとか手に入れることが出来た次第だ。そろそろ、ツアーの規模を更に拡大し、より多くの観客の動員を視野に入れるべきではないか……と思うのだが、それが難しいからこそ、映画館でのライブビューイングを敢行しているのだろう。

何はともあれ、今回は無事にチケットを入手することが出来たので、悠々自適に公演の鑑賞に赴くこととなった。更に喜ばしいことに、Twitterで仲良くさせていただいている人たちから、公演日当日に「岡山で集まりませんか」とのお声がかかり、公演終了後に飲み会が催されることにもなった。面白いライブの後に楽しい飲み会。なんと充実した休日だろう。その結果、連絡をいただいてから公演日を迎えるまでの数日間を、私は浮き足立ったまま過ごしたのであった。そんな状態で仕事をしていたにも関わらず、上司からキツいお叱りを受けなかったのは、まさしく奇跡といえるだろう。

そして、公演当日を迎えた。

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