白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「にちようチャップリン」(2018年5月6日)

  • レインボー【82点】

「人を愛するということ」。初めて自宅に招き入れた職場の後輩は、彼女の失敗を全て「愛すな~」と言いながら受け入れてしまうステキな男性で……。初見。いわゆるボケとツッコミの関係性を見せるコントではなく、日常に起こり得る失敗をまったく咎めることなく受け入れていく実方の演技が笑いを生み出している。その姿は異常でもなければ風刺でもない、シンプルにコミカルで楽しい。コントというよりもハートフルコメディを見ているような感覚に近いかもしれない。ネタ後のトークで「『お金がない!』の時の織田裕二を参考にしている」と語っていたが、まさにその世界観を再現しているといえるだろう。ソフトな感触は昨今のコンプライアンス重視の流れに適しているが、個人的にはもうちょっとパンチが欲しいところ。

  • 宮下草薙【76点】

「漫才:ハワイ旅行」。先輩からハワイ旅行へと誘われた草薙だが、どうして自分が選ばれたのかが分からないため、徐々に不安が募っていく。初見。面白かった。どうしてハワイに誘ってもらえたのかを不安に感じているだけではなく、ハワイではないところへと連れていかれるのでは……と妄想を繰り広げるところなどはたまらなかった。「俺、珍しいカブトムシよりは、高いと思って生きていたい……!」という台詞のバカバカしさよ。フリートークでも結果を残していて、売れる予感しかしなかったが、点数はあまり伸びず。終盤、予定調和の展開になったことで、やや失速していたのが影響したのだろうか。

「漫才:ちょうどええ」。歌っている最中にむき出しになる小堀の歯ぐきイジりを経て、クイズ「ちょうどええ」へ。ただ小堀の歯ぐきが出ている・出ていないのやり取りだけで笑いをかっさらってしまう様は流石ベテランといったところ。そこにダメ押しで安定感バツグンのフォーマットネタ「ちょうどええ」を重ねてくるのだから、そりゃウケて当然というものだ。実際、かなり面白かったのだが、とはいえ若手たちが競い合う場において、彼らレベルのベテランが出てくるのはどうなんだろうかと思わなくもない。

「漫才:フラれた友達を慰める」。夕焼けに包まれながら、フラれた友達を慰めるシーンを再現しようとするのだが、「女なんて星の数ほどいるよ!」という台詞に対するかーしゃのツッコミが止まらなくなってしまい……。番組でも紹介されていたように、漫才の中に雑学が盛り込まれていて、それが彼ら自身の個性になっている。ただ、少なくとも今回のネタに関しては、雑学の意外性がそれほど笑いに繋がっていないように思えた。雑学を取り入れるように決めていることで、むしろ漫才師としての可能性を抑え込んでしまっているところもあるのかもしれない。それはそれとして、以前に比べて、かーしゃのボケとしての佇まいが、ウド鈴木っぽくなっていたような。浅井企画の空気に染まってきたのだろうか。

「漫才:オムライス」。色んな卵料理の中でもオムライスが好きな二人だが、オムライスにかけるものがケチャップとデミグラスソースで対立し……。以前のヤーレンズは、漫才とは少し違ったとりとめのない雑談を繰り広げるスタイルを取っていたが、今回のネタはきちんと漫才の枠内に収まっていて、人は変わるものなのだなあと妙にシミジミとしてしまった。結果、ヤーレンズらしさが少し薄まってしまったが、漫才としてはシュッとキレイに収まったものになっていたように思う。卵料理ランキング・天国地獄大地獄のくだりも良かったが、なによりオチが美しかった。こういうオチをしれっとやってのけるところがまさにスタイリッシュ。「ケチャップの最後(の音)で悔しがるなよ!」。

  • 小島よしお【82点】

「クラシックミュージカル 浦島太郎」。童話「浦島太郎」のストーリーをクラシックの名曲に合わせてミュージカル風にお送り。一見、強引にクラシックと童話を織り交ぜた力技にしか見えないが、クラシックの選曲と台詞回しのボケはきちんと相性が良い。特に乙姫のくだりはあまりにもバカバカしくて声を出して笑った。通常のコントとして見ると足りないものばかりだが、その至らなさが小島よしおの場合は強みになっていて、その辺りを自覚的にこなしているという印象。クレバーだなあ。

「コント:コンビニ」。始めたばかりのバイト先のコンビニの店長は、どんな嘘も失敗も「だいじょぶだいじょぶ~」と全て受け入れてしまう人だった。とりあえず、小島よしおの後にこの台詞が軸のネタというところに、引き運の良さを感じた。或いは、小島が出演する回だと知った上で、このネタをぶつけたきたのだろうか。そういう勝負勘はありそうだが。ネタそのものに関しては、和田まんじゅう演じる店長のコミカルなキャラクターが魅力的ではあったけれども、それ以外の部分はかなりコントとして手堅い作りになっていて、意外性という意味では弱かったかも。机を飛び越えるシーンは笑った。

1位の2丁拳銃、2位のネルソンズが勝ち上がり。

【次回の出場者】

だーりんず
大自然
東京ホテイソン
トム・ブラウン
流れ星
マツモトクラブ
LOVE

2018年6月の入荷予定

20「落談~落語の噺で面白談義~♯3「紙入れ」

20「落談~落語の噺で面白談義~♯4「芝浜」

20「永野と高城。

27「きらきらパチパチしゅわしゅわ」(パーパー

27「Gentlemen」(ルシファー吉岡

菅家です。いよいよ六月ですね。……いや、特に何かイベントを抱えているわけではないのですが、六月を迎えると「もう一年の半分が過ぎてしまうんだなあ」と感じませんか? この半年間、自分は何をどうして生きていたのか……色々と後悔に苛まれる一ヶ月となることでしょう。……なりませんか?

そんな六月の注目作は、なんといってもアイドル・高城れにももいろクローバーZ)と芸人・永野によるツーマンライブを収録した『永野と高城。』でしょう。アイドルが笑いの舞台に挑戦するという企画は有り得ますが、完全なツーマンライブなんて、そう簡単に見られるものではありませんからね。しかも相手は、一度は売れっ子になったにも関わらず、昔と変わらぬカルト芸人ぶりを見せつけている永野というのだから、そりゃ観ないわけにはいかないでしょう。今年、第二回も開催されたそうで、そちらもソフト化されるかどうか分かりませんが、今から楽しみです。

あと、「キングオブコント」ファイナリストのパーパー、「R-1ぐらんぷり」ファイナリストのルシファー吉岡がそれぞれベスト盤をリリースします。発売のタイミングとしては少し遅いような気がしないでもないですが、こちらも楽しみですね。ちなみに、今年はモグライダーのDVDも制作されるとのことで、なにやらマセキ芸能社が頑張っていますね。現在、マセキはバカリズムとナイツのDVDを定期的にリリースしていますが、そこに新たに加えられる芸人は現れるのでしょうか。けっこう出し渋るイメージが強いので、なんとかしてほしいところではありますが。

「にちようチャップリン」(2018年4月29日)

  • ザ・ギース【90】

「コント:笛」。放課後の教室に残ってリコーダーを吹いている生徒のことを心配した担任が「いじめられているのではないか?」と訊ねるのだが、生徒は笛でしか返事してくれない。今年の単独で披露されていたコント。リコーダーを使って会話を持ちかけるコミカルな設定もさることながら、コントの中で演じるレベルを振り切れたリコーダーの演奏技術の高さが笑える。結果、メロディが美しければ美しいほど、大きな笑いが起きるという不思議な状況に。とりわけ尾関が二本目のリコーダーを取り出したシーンは素晴らしかった。不意を突かれた。

「漫才:カーナビ」。野沢雅子がカーナビの声をやったら。ベタな設定にベタなツカミで笑いを取りながらも、「画面にずっと野沢雅子が映っている」「多岐に渡る声優レパートリーの最後に普段の野沢雅子が登場」「野沢雅子がカーナビから飛び出して後部座席に一声」など、単なるモノマネの領域を超えたボケを随所に散りばめているあたりに、漫才師としてのプライドを感じさせられる。終盤の畳み掛ける展開も漫才師らしかった。ただ、オチは微妙。意外性という意味でも、ドラゴンボールネタという意味でも弱く、わざわざオチに持ってくることもなかったような。

  • はなしょー【72】

「コント:恋愛相談」。友達に教育実習の先生を好きになってしまったことを相談すると、「先生に恋するの広瀬すずみたいな美人じゃないと許されない」と断言されてしまう。友達の提言に振り回される女生徒を演じる杵渕はなの演技力が、観客から強引に笑いをもぎ取っていく様は見事としか言いようがないが、テレビで目にしたはなしょーのネタの多くが、本作のような「ブスがブスであることの立場をわきまえるように抑え込まれる」設定で、他にバリエーションはないのかと心配になる。彼女たちと同じく演技力で笑いを引っ張り出すニッチェがとっくにそのスタンスから脱却していることを思うと、この方向性以外のネタもやっていかないと……厳しい。

  • 天狗【70】

「漫才:物忘れ」。物忘れがヒドくて一週間の曜日を英語で言えなくなってしまった川田に、相方の横山が思い出せるようにレクチャーする。愚鈍で不出来な川田を優しい目で見守っている横山というコンビの関係性を見せたい漫才だというのは理解できたのだが、肝心の内容が頭に入ってこない。思うに、導入の「頭を引っ叩く→耳鳴り」のくだりのテンポが悪くて、それ以降の流れに関心を持てないためだろう。もとい、はっきり言って、あのくだりは必要無い。オチへの伏線のつもりなのだろうが、そこまで笑いに昇華されていなかったし。そんな小細工がないほうが、この漫才は見やすかったように思う。ただ、横山が観客に「なんでみんな応援したらへんのーっ!?」と訴えかけるくだりは、それまでの流れからの意外性があって笑った。

「コント:クズ男」。幼馴染みが紹介したいという彼氏は、身なりはきちんとしていないわ、彼女の金でギャンブルに手を出すわ、彼女に手をあげるわ、どっからどう見ても典型的なクズ男で……。とにかく設定が上手い。一般的なクズのイメージをそのまま反映したような男に怒りの鉄槌を振り下ろそうとするも、意外と堅実でちゃんとしている人間と知り、何も言えなくなってしまう。なにやら、ある特定の状況を一般化して、紋切り型に批判してしまいがちなネットユーザーのことを皮肉っているようにも見えて、その意味ではとても現代的なコントといえるのかもしれない。ネタの内容もさることながら、振り上げた拳の行き場を見失って、ただただ口ごもる森本の演技も良い。

「漫才:弔辞」。相方の葬式で読む予定の弔辞を完成させたので読み上げる。勝手に相方の弔辞を考えてきて、漫才師のように「どうもーっ!」と声高に読み始めるまでのくだりが漫才のピーク。それ以降はボケを混ぜ込んだ弔辞が読み上げられるだけで、特に目立つところはなし。正真正銘、絵に描いたような竜頭蛇尾。そもそも、ツッコミの後にボケが提示されるトリッキーなスタイルの漫才で注目を集めたコンビなのだから、もっとひたすらにムチャクチャなことをやってしまってもいいと思うのだが。どうして、ここにきて無難で手堅い漫才をやろうと思ってしまったのか。

「丸腰侍」。全裸にお盆の丸腰侍が今日も行く。人斬りの犯人を追いかけるストーリーであることを考慮すると、主人公は侍じゃなくて岡っ引きのような気がしないでもないが……細かいことは置いておこう。基本的には全裸の刑事が犯人を追いかける『丸腰刑事』とやっていることは同じなのだが、妙に濃くなっている化粧とヘンに仰々しい台詞回しのせいで、なんとなく差別化されているような気がしないでもない。気のせいかもしれない。

1位のザ・ギース、2位のトンツカタンが勝ち上がり。

【次回の出場者】

小島よしお

ジャイアントジャイアン

2丁拳銃

ネルソンズ

宮下草薙

ヤーレンズ

レインボー

「にちようチャップリン」(2018年4月22日)

  • インディアンス【90点】

「漫才:きむが元気ない」。相方がコンビを結成したころに比べて元気が無くなってきたという田渕に対し、元気いっぱいの姿を見せようとする木村だったが、何を言ってもやっても反論されてしまう。通常、インディアンスの漫才は木村の話が先行し、田渕がそれにいらぬボケを付け足していくスタイルを取っていたが、今回は木村の言い分に対して田渕がボケやツッコミを打ち返していくスタイルにシフトチェンジ。結果、従来のネタよりも漫才として噛み合っているし、田渕のスタンスも木村を追い詰めるという点では統一されているので違和感がない。新しいインディアンスの扉が開いたような漫才だった。

「コント:サプライズ」。テキトーな理由で家に呼んだ友達に、サプライズパーティを用意している二人。ケーキもプレゼントも用意して、二人の間でしか通じない暗号も考えて、しっかり準備万端で待ち構えていたのだが、そこで思わぬハプニングが……。明らかにチョイスミスな暗号のフリが大き過ぎて、そちらにばかり意識がいっていたところ、その隙を突くかのように繰り出された「緊急事態の合図」「オリジナルのバースデーソング」などの表現力重視のボケにまんまと飲み込まれてしまった。否、むしろ暗号ボケがきちんと機能するように作られているからこそ、伝わるかどうか分からない表現力重視ボケを安心してぶつけられるのだろう。序盤のどうでも良さそうなボケをフリにしたオチも上手い。

  • プラス・マイナス【92点】

「漫才:街づくり」。自分で街を切り開いていくゲームにハマッているという岩橋が、舞台上でお互いに街を作っていって、どちらがより良い街を作ることが出来るか勝負しようと提案する。慣れた手つきで街に必要な施設を建築していく岩橋に対して、我が道を突き進んでいく兼光の奔放さが楽しい。そんな朗らかな気持ちをブチ壊すように始まる「大仏・小仏」についての激論を重ねていくくだりは、これまたあまりの下らなさに笑ってしまった。どうでもいい。心底どうでもいい。それでいて終盤、「おぎゃあ」のくだりにはちょっと感動を覚えてしまった。これほどまでに観客の視点を右へ左へ転がしてくれる漫才も珍しい。面白かった。

  • ペンギンズ【82点】

「アニキ漫才 ~小道具卒業~」。小道具に頼り過ぎだとアニキに注意されたノブオが、泣きながらアニキに小道具を手渡していく。用意してきた小道具のチョイスと所持している小道具の異常な多さが笑いに昇華されているネタ。決して賞レースで勝てるタイプのネタではないが、こういう場だからこそ出来るイレギュラーなネタを用意してきたことに好感を覚えるし、道具のチョイスもきちんと考えられていて(ゴムチキン三連発は笑った)、楽しかった。アニキのオチも見事。

  • 鬼越トマホーク【84点】

「漫才:キャラがほしい」。コンビにキャラが無いと思っている坂井が、様々なキャラクター要素をコンビに付け加えていこうとする。何の説明もなく坂井が「双子設定の漫才」「ハーフ設定の漫才」を始めようとするくだりがたまらなく好き。見た目がアウトローなのに、意外とこういうベーシックなくだりをそつなくこなすコンビである。そこからコントに入るまでのくだりはやや歪な流れになっていたが、それら全てを「コワモテが出来る全ての漫才コントはサンドウィッチマンがやってるよ」の一言で集結させてしまったのは凄かった。妙に内容に熱が篭っているのは、幾らか本音も反映しているからなのだろうか。そして終盤、まさかの展開で一気に畳み掛ける。売れない芸人ならではの悲哀をテーマにしているのに、それをまったく感じさせない安定感。良かったな。

  • しずる【80点】

「コント:高橋英樹」。二人が入った喫茶店に偶然にも高橋英樹が。でも、当人か他人の空似か分からない。そこで池田が確認に行くことに……。既に高橋英樹ではないと分かっているにも関わらず、村上に促されて何度も何度も確認に行かされる池田の不条理な境遇がたまらない。ただ、池田は池田で、不満を口にしながらもまるで積極的に確認しに向かっているように立ち振る舞っているため、不快感のようなものは覚えない。このバランス感が良い。ただ、ややブラック色の強いオチは、しずるの得意な手法をそのままお手軽に持ち込んだだけのように見えて、なんだか勿体無い。

1位のジェラードンが四月の月間チャンピオンに決定。

【次回(4月29日)の出場者】

アイデンティティ

アキラ100%

笑撃戦隊

天狗

トンツカタン

はなしょー

「にちようチャップリン」(2018年4月15日)

  • インディアンス【96点】

「漫才:高級レストランでデート」。ホテルの最上階にある高級レストランでデートしたらモテるんじゃないかという木村の提案に対して、フザケたボケで対応していく田渕。以前に同じ設定の漫才を演っていた彼らを見たことがあるような記憶があるのだが、当時よりもずっと田渕のボケが暴走していて、それなのに適度に元の話題へと戻ってくるバランス感がきちんと向上している点にうっすらと感動を覚えた。ただ、それが却って、田渕の暴走を予定調和であるように見えてしまって、それに伴い、面白いのだけれども乗り切れない部分を作ってしまっているようにも感じられた。結果、改めてアンタッチャブルの偉大さに気付かされている。厳しい道だ。

  • しずる【90点】

「コント:蜂」。追試中、教室に入ってきた蜂に何故か先生ばかりが刺され続けるのだが、平静を装い続ける。生徒の前で平静であり続けようとしているのに、蜂に刺されるたびについつい「んっ」と濁った声でリアクションを取ってしまうギャップが可笑しみに昇華されているコント。切り口は面白いし、それなりに丁寧に作り込まれてはいるが、最後の最後で「先生だけが何故か蜂に刺され続けている」という設定の粗に言及するオチは、上手い落としどころを見つけられなかったが故の苦肉の策という風で勿体無い。

  • 三拍子【82点】

「漫才:遊び」。「馬跳び」を知らないという高倉に久保が遊び方をレクチャー。いつだったかのM-1グランプリ敗者復活戦で披露されていた記憶がある。動きメインのネタだが、「おしりどんぐり」「馬インザスカイ」など、ところどころに引っ掛かる表現をきちんと残しているところに、三拍子の漫才らしさを感じさせられた。後半の「助走をつけている高倉のボケが気になって馬の姿勢を崩してツッコミを入れる久保」のやり取りもバカバカしくて面白かった。ただ、動き重視のネタになっていたため、あんまりボケの本数を詰め込めなかったのが残念。あと、“正統派漫才師”として紹介されていたのに、躍動感にあふれる漫才をやっていたのは、ややチョイスミスのような気がしないでもない。

ポール牧野」。ポール牧野によるポールダンス風のパフォーマンスとともに繰り広げられる一言ネタ。「THE W」決勝戦のステージでも披露されていたパフォーマンス。ポジティブな視点からの自虐ネタと不思議なビジュアルによる洗練されていない仕草が笑いに昇華されている。逆にいえば、それを事前の説明もなく、観客に伝えられる表現力が評価されるべきなのかもしれない。ひょっとするとハリウッドザコシショウレベルの芸人に成り得るといえるのか。ただ、先にも書いたように、ネタの内容はあくまで自虐ネタなので、そこのオリジナリティに欠けるのが勿体無い。

「コント:二人羽織」。新人歓迎会で二人羽織をすることになった二人が、早速練習を開始するのだが……。二人合わせて体重二百キロ超えを自称しているコンビだけあって、ネタの内容も自身のビジュアルに特化したものが主。ただ、どちらも太っているためか、それぞれのデブ発言に対してツッコミを入れず、呑気に爆笑で乗り切ってしまうところに、現代性を感じる(ネタの後、小池栄子の体型を褒める流れには笑った)。とはいえ、ネタの内容に意外性が感じられず、もう少しオリジナリティを見せていくようにしないと単なるデブキャラで終わってしまいそうな気もする。タイムマシーン3号のような語彙力を身につけられるかどうか。

「コント:バスガイド」。東京を案内する観光バスのガイドの左手が明らかに人間のモノではなく、名物名所よりもそっちの方が気になって仕方がない。「左手が明らかに人間のモノではない」というボケを延々と消費し続ける手法は如何にもジグザグジギーらしいが、そのしつこさが上手く表現されておらず、ただ単純にボケのバリエーションが少ないだけのコントに見えてしまう。また、これと同じ傾向のコントを、既にしずるが演ってしまっていたので、余計に物足りなさを感じた。手にまつわるエピソードをもう少し掘り下げていれば、より印象にも残ったのだろうが、それはそれでジグザグジギーらしさが失われてしまいそうでややこしい。

  • 永野【72点】

「おもしろネタ4連発」。「TSUTAYAのテーマソング」「ノリノリで香水をつけるとこ」「コント:台風の中、キャバクラに行く人」「くまさん応援大会」の四本を披露。メディア的にはすっかり飽きられてしまった感のある永野だが、こうしてパフォーマンスを見ると、当時と違わぬポップさとキレ味を兼ね備えていて、まるで色褪せていない。このまま色褪せることなく、静かにメディアから姿を消していくのだろう。それでいいのか。それにしても、千鳥大悟もコメントしていたが、「くまさん応援大会」だけはこの場で披露する理由がまったく分からない。ライブであれば、会場の空気を一つにまとめるための準備として理解できるのだが、テレビの舞台で披露する意味とは。

1位のインディアンス、2位のしずるが勝ち上がり。

【次回(4月22日)の出場者】

インディアンス(3週目1位)

鬼越トマホーク(2週目2位)

しずる(3週目2位)

ジェラードン(1週目1位)

プラス・マイナス(2週目1位)

ペンギンズ(1週目2位)

「にちようチャップリン」(2018年4月8日)

  • 3時のヒロイン【74点】

「コント:妖精」。妖精を見つけるために森へと足を踏み入れた姉妹の前に現れたのは、デカくてダンサブルな妖精だった。強烈なビジュアルと無邪気な印象のキャラクターが暴れ回るという意味では、前回の放送でジェラードンが披露していたコントを彷彿とさせる。後半、急にグロテスクな部分を見せたという点も似ていたが、こちらはそれがあまり観客に伝わっていなかったように思う。途中、姉がダンスを楽しみ始めてしまう展開も、冷静に考えるとバカバカしいのだが、これまたあんまり伝わっていなかったような。もうちょっと笑いへと昇華させる流れを作らなくてはならないところか。基本的には、「妖精が見える姉」と「妖精が見えない(=自身が思い描いている妖精のイメージで捉えている)妹」のギャップを軸としたコント。元アイドルという福田のツッコミが上手い。

  • プラス・マイナス【88点】

「漫才:転校生」。小学生だった頃に父親の仕事の関係で引っ越し・転校を繰り返していたという岩橋の話をきっかけとした、転校生をテーマにした漫才コント。兼光のアニメキャラのモノマネで観客の興味を惹きつけ、シンプルな言い間違いを多用したボケで笑いを巻き起こす構成が、実に手慣れている。「転校生の挨拶」「友達」「お別れ」の三部構成になっていて、きちんと全体の流れを意識しているあたりも上手い。ただ、この上手さがむしろ、彼らの進化を止めてしまっているような気もする。結成十五年目、この辺りが正念場か。

「コント:くだもの子」。フルーツ女子・くだもの子に扮した脳みそ夫による一人コント。「考えがあまおう!」「ばればれバレンシア!」「恥ずかジューシー!」など、台詞の随所に果物(および果物を彷彿とさせるワード)を混入させることで、言葉遊びの上手さと意外性による笑いを引き出している。以前にも書いたような気がするが、やっていることはダンディ坂野ジョーク集と大して変わらない。それが観客にハマるかどうかだろう。あと、これはネタの内容と直接は関係無いが、脳みそ夫がネタ中に「こんちわ~す」と口走るのは彼が不安を感じている時らしいので、そのことを意識しながらネタを観ると、また少し違った面白さが湧き上がってくるかもしれない。

  • ハナコ【76点】

「コント:カレー店」。ナンとライスがおかわり自由なカレー屋さんにやってきた青年は、何故か他の客からナンのおかわりを頼まれたご主人が激怒している姿を目撃してしまい……。不条理な事態に遭遇してしまった当事者ではなく、それを目撃した第三者が心境を語り続けるというスタイルのコント。そのためなのか、どうしてご主人がナンのおかわりを注文されると激怒するのか、その理由は最後まで分からないままなのだが、特にしこりは残らない。また、激怒するご主人・激怒される他の客、どちらに非があるのかが曖昧にすることで、理不尽な状況にまでは至っていない点も絶妙。しかし、なにより注目すべきは、ご主人の造形に対するこだわり。衣装、ビジュアル、語り口、全て完璧ではないだろうか。

「漫才:バスのアナウンス」。バスの中に流れるアナウンスのスイッチをやってみる。随分とニッチなテーマに驚かされたが、要するに、バスのアナウンスを上手く喋ることが出来ないともしげの魅力的なダメさを引き出している漫才である。あまりにも出来ないので、何処までが台本で何処までがアドリブなのか、観ているだけではまったく分からない。結果、後には何も残さない、何も残らない漫才として成立させられている。このバランス感のまま、更に洗練されていったら、とんでもないことになりそう。

  • 鬼越トマホーク【80点】

「漫才:流れ星」。流れ星を目撃したのにお願いが出来なかったという坂井が、相方の金ちゃんに願い事を決めておくように指示する。若手芸人特有の願い事を提案する金ちゃんに対して、ちょっとサイコな切り口から反論する坂井のしゃべくり漫才。それぞれのキャラクターがぶつかり合うやり取りだけでも面白いのだが、「卵から産まれた」「俺は宗教やってるって思われたくねえんだよ!」など、印象的なワードも残せている点が魅力的。ただ、バリエーションがあまりにも少ないため、いずれ枯渇するのではないかと危惧するところも。

「コント:会議」。朝の会議に五分ほど遅刻してきたサラリーマンが目にした、その五分の間に片付いてしまったという数々の案件とは。2014年の単独ライブ「それにしてもへんな花」で披露されたコント。単独ではもっと色々な案件が拾い上げられていて、よりサラリーマンを演じる金子が翻弄されていく様が丁寧に描かれていたのだが、番組では時間の関係か「サングラス」「2億」「転勤」のくだりだけが取り上げられていた。この辺りの描写不足が、点数の低さに繋がってしまったのだろうか。……それにしても、もうちょっと点数を稼いでも良かったような気もするが。ただ、オチに関しては、上手いようなそうでもないような、ふわっとした印象が残るので、もうちょっとしっくりくるカタチを模索してほしいような。

1位のプラス・マイナス、2位の鬼越トマホークが勝ち上がり。

【次回(4月15日)の出場者】

 インディアンス

三拍子

ジグザグジギー

しずる

どんぐりパワーズ

永野

牧野ステテコ

「にちようチャップリン」(2018年4月1日)

要望があったので、やる。

「コント:ハチ公前」。ハチ公前にやってきた二人の外国人観光客からカメラを手渡され、記念撮影を頼まれた青年が独特のテンションに巻き込まれる様を描いたコント。一見、外国人という設定を使っているだけのハイテンションギャグコントのようだが、とはいえ設定を崩さない程度には現実的なラインを守っているバランス感が素晴らしい。否、国際的なドキュメンタリーバラエティ番組が増えている昨今、二人が演じる外国人のテンションが却ってリアルに感じられるといってしまってもいいのかもしれない。青年から財布をかすめ取ってしまうオチも、決して無邪気ではない外国人のしたたかさが上手く表れていて、味わい深い。それはそれとして「西部警察じゃん、見た目!」のくだりがかなり好き。そうとしか見えない。

  • ペンギンズ【90点】

「漫才:コンビニ」。お馴染みアニキとノブオの漫才。以前よりもネタの構成は粗く、内容よりも二人の関係性に着目している印象を受ける。「この二人の漫才が面白い」というより「この二人のコミュニケーションの様が面白い」という状態とでもいうのだろうか。しかし、コントが始まると同時にアニキが退店するボケ、二人の立ち位置に適したコント設定をあっさりと見つけてしまう展開、ノブオが律儀に設定を守ってタクシーを出てから「アニキアニキーッ!」と声をあげるボケなど、舞台での見られ方をきちんと認識しているからこそ出せるネタも多い。この辺りのアクセントをどれだけ続けられるかが今後の重要ポイントか。

  • 空気階段【88点】

「コント:賄賂」。賄賂を受け取っていたことを喋ってしまった大臣をハメるために秘書が発言を録音していたのだが、いざ音声を再生してみると語り口が何故かトシちゃんに。ナンセンスな設定もさることながら、あまりにも異常な事態に大臣が保身を捨てて録音に固執してしまう展開がとんでもなくバカバカしい。ただ、そのバカバカしさが、あんまり観客に伝わっていなかったのが些か残念。あと、トシちゃんとか、郷ひろみとか、ネタの軸となっている部分が昭和で止まってしまっているのも、ちょっと勿体無いような気が。

「コント:ブランコ」。男の子たちにブランコを取られたという小学生の女の子のために立ち上がった青年だったが、その男の子たちというのがなんと高校生の不良で……。青年に巻き起こった状況を思うと、これはとんでもない悲劇でしかないのだが、不良に対してあっさりと引き下がって女の子に諦めるように断言するみっともない姿勢が故に、悲痛な印象を与えない。否、これもそんじょそこらの芸人が同様のことをやれば、観客に引かれていただろう。ほしのディスコというみっともなさの権化のような人間が演じるからこそ、この状況が笑いに昇華されている。「今回はお嬢ちゃんが勝手にブランコに乗っていたのが悪い!」「お兄ちゃんも同じ被害者の会です」「うるさくするのも刺激に繋がるかもしれない!」などの台詞回しも絶妙。しかし、これだけの目にあっているのに、こんなにペーソスを感じさせない芸人も珍しい……。

「漫才:芸能人のイメージ」。反町隆史松嶋菜々子に対して特殊なイメージを持っている南川が、そこから想定されるシチュエーションをコンビで再現しようと試みる。昨年のM-1予選でも披露されていた漫才。勝手なイメージによって生み出されたシチュエーションの歪みと、ピーマンズスタンダードの二人によるクオリティの低い反町隆史松嶋菜々子の会話の歪みが最高潮に達したところで、なんとなくスルーされかけていたツッコミどころが強く指摘される展開がとても気持ちいい。こういう仕掛けを内包した漫才は退屈になりがちだけれど、きちんと熱量を保って演じられていたように思う。また、ツッコミを浴びている最中の、南川のなんともいえない表情がいい。無感情とも茫然とも戸惑いとも表現できない表情なのだ。この表情がもっと活かされたネタも観てみたい。

  • ZAZY【74点】

「紙芝居:転校生」。昔、プレイしたテレビゲームで、どんな危機的状況でもラップで解決してしまう……という設定のゲームがあったけれど、それを思い出した。内容に整合性が取れていなくても、ノルマがあって、クリアすべき障害があって、そこにナンセンスでもストーリーが組み込まれていれば、なんとなく納得してしまえる。そんなリズムゲーのノリをそのままスケッチブックに詰め込んだような。感覚としては「面白い」より「楽しい」に近い。そこへ分かりやすい笑いのエッセンスを組み込むことで、芸人のネタとして成立させている。「途中から無になって、何も考えずに見ていました」という近藤春菜のコメントが最適。

  • 馬鹿よ貴方は【64点】

「漫才:カラオケ」。一人でカラオケにやってきた新道が、ファラオ演じる店員に雑に扱われ続ける。ひとつひとつのやり取りは不条理で面白い。ただ、どちらも感情表現に乏しいため、全体の流れをやり取りから感じ取ることが出来にくいので、「一本の漫才を観た」というより「複数のボケとツッコミのやりとりを観た」という味気ない印象を残す。それでも以前は一貫性を表現しようとしていたように思うが、少なくとも今回のネタからはそれが感じられなかった。以前ほどネタの構成に頓着しなくなったのかもしれない。……したほうがいいと思う。

1位のジェラードン、2位のペンギンズが勝ち上がり。

【次回(4月8日)の出場者】

うしろシティ

鬼越トマホーク

3時のヒロイン

脳みそ夫

ハナコ

プラス・マイナス

モグライダー

大喜利鴨川杯で己を見つめ直す(2018年4月27日~29日)

関西最大級の大喜利トーナメント【大喜利鴨川杯】が一年半ぶりに開催されるという。以前、Twitterで相互フォローの関係にあるゴハ氏から公演のDVDを頂戴して是を視聴、そのアマチュアだからこそ吐き出せる剥き身の発想・表現に感動を覚えていた私は、「これは目撃せねばならぬ」と大会への参加を即決した。

鑑賞ではない。参加である。

はっきり言って、私には類い稀な大喜利の才があるとはいえない。学生時代、インターネット上の大喜利サイトを頻繁に出入りしていたが、決して記憶に残る回答を叩き出せてはいなかった。だが、さほど遠くない場所で開催される誰しもに門戸を開放している大会を、安全な場所からのんびりと眺めているだけで良いのだろうか。否、退屈な日常を破壊するかの如く、荒くれ者どもの巣窟へ蛮勇のように飛び込む瞬間も人生には必要なのではないか。

画して私は、四月末に大阪へ向かうことと相成った。

続きを読む