白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

大喜利鴨川杯で己を見つめ直す(2018年4月27日~29日)

関西最大級の大喜利トーナメント【大喜利鴨川杯】が一年半ぶりに開催されるという。以前、Twitterで相互フォローの関係にあるゴハ氏から公演のDVDを頂戴して是を視聴、そのアマチュアだからこそ吐き出せる剥き身の発想・表現に感動を覚えていた私は、「これは目撃せねばならぬ」と大会への参加を即決した。

鑑賞ではない。参加である。

はっきり言って、私には類い稀な大喜利の才があるとはいえない。学生時代、インターネット上の大喜利サイトを頻繁に出入りしていたが、決して記憶に残る回答を叩き出せてはいなかった。だが、さほど遠くない場所で開催される誰しもに門戸を開放している大会を、安全な場所からのんびりと眺めているだけで良いのだろうか。否、退屈な日常を破壊するかの如く、荒くれ者どもの巣窟へ蛮勇のように飛び込む瞬間も人生には必要なのではないか。

画して私は、四月末に大阪へ向かうことと相成った。

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2018年5月の入荷予定

19「落談 ~落語の噺で面白談義~ ♯1「粗忽長屋」

19「落談 ~落語の噺で面白談義~ ♯2「火焔太鼓」

23「M-1グランプリ2017 人生大逆転! ~崖っぷちのラストイヤー~

ゴールデンウィークという鑑賞の時間を長く持つことの出来る連休を抱えているにも関わらず、リリース本数の少ない五月。ただ、テレビ番組に限れば、「いろはに千鳥」「さまぁ~ず×さまぁ~ず」「旅猿」「クレイジージャーニー」のソフトがリリースされる模様。テレビっ子にはたまらない月になりそうだ。今月の注目作も番組絡み。

「落談 ~落語の噺で面白談義~」は映像配信サービス・ひかりTVで放送されているバラエティ番組である。実際に落語を聴きながら一つの噺をテーマにトークを展開している。レギュラーに米粒写経。第一巻に水道橋博士、第二巻にナイツ塙がゲストとして出演。まだ一度も観てはいないが、盤石の布陣である。間違いなく面白いのだろう。

年に一度のお楽しみ・M-1グランプリのDVDは今回も充実の内容。決勝戦の模様は勿論のこと、十大会連続で敗者復活戦に出場したとろサーモンが過去に披露してきた漫才を自分自身で採点、ナンバー1ネタを決める「とろサーモンNo.1決定戦 T(とろ)-1グランプリ」を収録。長らくファイナリスト候補として名前が挙がっていたコンビなだけに、熱演を楽しめそうだ。

「トンツカタン単独ライブ「トンツカタンⅠ ~君の笑顔の為だけに~」」(2017年10月25日)

トンツカタン単独ライブ「トンツカタンI~君の笑顔の為だけに~」 [DVD]
 

2017年7月21日・22日にユーロライブで開催された単独ライブの模様を収録。

トンツカタンプロダクション人力舎所属のトリオユニットである。菅原好謙櫻田佑が組んでいたコンビに、森本晋太郎が加わる形で2012年に結成された。ユニット名は櫻田の兄が命名したもので、特に意味はないという。スクールJCA21期生。同期にはおとぎばなし、ヤマグチクエストなどがいる。

私がトンツカタンのことを知ったのは、とあるテレビのネタ番組。所属事務所も活動遍歴も知らずに彼らのコントを視聴したのだが、これがやたらと面白い。その後もいくつかネタを観て、これは完全に面白いトリオだという認識を取るようになった。そんな折に発表された、単独ライブのDVD。念願と言っても過言ではない。これは間違いなく面白いのだろうと期待に胸を膨らませて購入、鑑賞したところ……これが予想外の肩透かし。こちらが期待し過ぎていたのかもしれないが、それにしたって、まるで満足感が残らない出来映え。ただ、つまらなかったのかというと、そうでもない。これが難しい。一番扱いにくいタイプの作品である。つまらなくないのに物足りない。

本作の問題点を端的に言葉にするなら「単独ライブに特化し過ぎている」ところにある。前説をテーマにしたコント『魔王』、変化球タイプの歌ネタ『曲にするわよ』、コントと映像を掛け合わせた『自供』、コントの世界を超えたメタ視点を笑いに昇華している『リアリティ』など、ネタ番組に掛けられるような一本立ちしていないコントがやたらと多い。無論、単独ライブなどというものは芸人にとっての独壇場なので、基本的には何をやってもいい。しかし、数々のコント師を世に送り出してきた芸能事務所において、次世代を担うホープとして注目を集めているトリオが、第一弾を冠した単独ライブにおいて本来の魅力的なネタよりも一回こっきりであろう離れ業のようなネタに特化するというのは、ちょっと本来のトリオとしてのベクトルと違うのではないかと。ことによると、単独ライブということを意識し過ぎて、うっかり空回りしてしまったのかも……って、どんだけ忖度しているんだ私は。

……と、このようなことを書いてしまうと、ちゃんとしたコントをまったくやっていないのではないかと思われそうだが、一応、きちんと面白いネタもある。初めての客が相手だったとしても、まるで常連客のように接するサービスの居酒屋を『居酒屋』と、出された料理を口にするたびに何かと感動を覚えてシェフを呼び出す客に翻弄される様を描いた『シェフを呼んで』である。この二本は切り口も良かったし、展開も魅力的だった。特に『シェフを呼んで』は、レストランの落ち着いた雰囲気と丁寧に積み重ねられていくバカなやり取りのギャップがとても面白かった。オチの切れ味も見事。ただ、その一方で、このご時勢にTHE ALFEEをモチーフとしたコント『誕生秘話』みたいなネタも。2010年代も終わりが見え始めているというのに、まだTHE ALFEEは擦られるのか……。

これらライブ本編に加えて、特典映像としてメンバーがセレクトしたベストネタ四本を収録。ネイティブな英語で周囲から浮いてしまう帰国子女のために、あえてカタコトの英語を勉強させる塾の授業風景を描いた『カタコト塾』。女友達の部屋に“G”が出てきたというので、夜中にもかかわらず呼び出された青年が目にした“G”の正体は……『G』。友達に連れてこられた秋葉原のカフェは、昔ながらのオタク風の店員から接客を受ける店だった!『アキバ系カフェ』。ベンチに座ってイチャイチャしているカップルが、お互いの変化について「気づいた?」と質問し合うのだが、その内容があまりにもエグくて……『気づいて』。いずれ劣らぬ傑作揃いである。『カタコト塾』『G』『アキバ系カフェ』は以前にネタ番組で視聴したことのあるネタだったが、当時と変わらない面白さだった。これだけのコントを作ることが出来るのに、どうして本編であんな感じになってしまったのか。

なお、トンツカタンは2018年3月にユーロライブで単独ライブ「トンツカタンⅡ ~さよなら さよなら こんにちは~」を敢行済。現在、こちらのソフト化は予定されていないようなのだが、どうなるのだろうか。ナンバリングを付けているのだから、続けてリリースしてほしいところではあるのだが。

◆本編【74分】

「魔王」「居酒屋」「卒業アルバム①」「誕生秘話」「卒業アルバム②」「曲にするわよ」「ザコYouTuber①」「自供」「シェフを呼んで」「ザコYouTuber②」「リアリティ」「菅原脚本 みなさまへのおたのしみVtR」「覚えてろよ」

◆特典映像【12分】

「カタコト塾」「G」「アキバ系カフェ」「気づいて」

「立川志ら乃と山口勝平の落語会」(2018年4月15日)

午前九時起床。

身支度を済ませて、午前十時に車で自宅を出発。

午前十一時ごろ、宇多津駅に到着。同十七分発の瀬戸大橋線に乗り込み、岡山駅へと移動。午前十二時半に岡山駅へ到着。一時間ぐらいで着くだろうと目論んでいたので、少しだけ慌てる。そういえば鈍行だった。

ひとまず「とらのあな 岡山店」へ移動。

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下心をむき出しにしながら肌色がやたらと多い同人誌のコーナーを物色していると、以前から気になっていた『パンツ専門ポーズ集』を発見。私はイラスト描きではないが、エロティシズム表現には強い関心を持っている人間なので、これを入手することに必要性を感じ、致し方なく購入した。帰宅後、購入したからには内容を確認せねばなるまいと慎重にページを開いてみたところ、色々な人たちが色々と大変なことになっていた。実に恐ろしい。

パンツ専門ポーズ集 パンツが大好きだから、大至急パンツを描きたい!

パンツ専門ポーズ集 パンツが大好きだから、大至急パンツを描きたい!

 

購入後、今回の目的地がある「イオンモール岡山」へ。

とりあえず昼食を取ろうと思い、五階のフードコートへ向かうも、ちょうどお昼時ということもあって、席がまったく空いていない。こうなると、もうどうにもならないだろう……と思いながらも、一縷の希望を求めて六階・七階のレストラン街へと移動。しかし案の定、どの店も沢山の行列を作っていて、やはりどうにもならない。仕方がないので、五階の無印良品でバームクーヘンとトウモロコシ茶を購入、中庭で食べる。家族連れやカップル、友達同士でキャッキャと盛り上がっている空間で、孤独に食べるバームクーヘンというのはなんともいえない味である。

食後、トイレで用を足し、本日の会場である「おかやま未来ホール」へ。物販コーナーで手ぬぐいと落語CDが売られているのを見かける。本日の主役である立川志ら乃山口勝平の手ぬぐいがそれぞれ二種類ずつと、過去の公演での音源を収録したCDが三枚。普段の落語会ならば即座に手を出すところだが、志ら乃師匠の実力もよく分かっていない状態なので、一旦スルー。チケットをもぎってもらい、ホールへ。前から七列目、真ん中寄りの席。なかなかの好位置である。

午後二時開演。

 オープニングトーク

のゝ乃家ぺぺぺぇ「初天神

立川志ら乃「火焔太鼓」

 仲入り

のゝ乃家ぺぺぺぇ「権助魚」

立川志ら乃「雲八」

 エンディングトーク

まずは二人によるオープニングトークから。今回の二人会が開催されるに至った経緯、本業は声優の山口勝平が“のゝ乃家ぺぺぺぇ”として落語を始めた理由などが軽妙に語られる。ちなみに、今回の会場はキャパ600人なのだが、当初は100人集まればいいほうだろうと思われていたにも関わらず、当日券も合わせて300人分ほど売れた……とのこと。ことによると、今後も同傾向のイベントが開催されていくかもしれない。

山口勝平もとい“のゝ乃家ぺぺぺぇ”は古典落語を二本。父親と子どものやり取りを描いた『初天神』、田舎者の権助のすっとぼけた態度がコミカルな『権助魚』。どちらも落語家の語り口としては物足りなかったが、演技力と声量は確かで、流石はプロの声優といったところ。特に『初天神』に登場する子どもは上手かった。

対する立川志ら乃師匠は、古今亭の至宝『火焔太鼓』と漫画「昭和元禄落語心中」に着想を得た創作落語『雲八』で勝負。それなりに落語を齧っている身だから分かるのだが、これはなかなかに攻めたチョイス。地方公演で、しかも山口勝平の名前に惹かれてきたであろう観客が多い会場で、あえて手堅いネタではない『火焔太鼓』を選ぶ姿勢。素晴らしい。それでいてバカみたいにウケるのだからたまらない。文字通りドッカンドッカン笑いが起きていた。落語家を主人公とした『雲八』も素晴らしかったが、これでもかとギャグを散りばめた『火焔太鼓』が秀逸。特に古道具屋の亭主が屋敷に太鼓を持参したら起こるだろう出来事を女房が妄想するくだりはたまらなかった。あまりにもハチャメチャだったので、思わず仲入りの際に公演CDを買いに行ってしまった。

終演後、エンディングトークはそこそこに、サイン会へ。一応、CDを買ったので、参加することに。サインを貰い、握手をする際に、何か一言付け加えようと思っていたのだが、ここで何かヘンテコなことを言ったら困らせるだけなので、ただ単純に「お疲れさまでした」とだけ声を掛けさせていただいた。

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全てが終わったところで、HMVに移動。Creepy Nutsのアルバムを買う。

クリープ・ショー

クリープ・ショー

 

そしてフードコートで「かばくろ」のお得セットを食べる。

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食後、岡山駅へ移動し、快速マリンライナーで香川に戻る。

以下略。お疲れさまでした。

「ENGEIグランドスラム」(2018年4月7日)

和牛「漫才:クラブで楽しむ人が苦手」

アンジャッシュ「コント:部長のカツラ」

ブルゾンちえみwithB「価値観」

TKO「コント:モロゾフ後藤」

 トライアウト:チョコレートプラネット「コント:手紙」

 トライアウト:うしろシティ「コント:転校生」

 トライアウト:アルコ&ピース「コント:サプライズプレゼント」

流れ星「漫才:盆踊りのメロディ」

ロバート「コント:プロフェッショナル」

南海キャンディーズ「漫才:合コン」

スピードワゴン「漫才:心理テスト」

野性爆弾 くっきー「シャコ」

とろサーモン「漫才:カミナリ親父」

ジャルジャル「コント:オペラ歌手」

ハライチ「漫才:未知の生物が寄生」

 歌謡ショー:ZURADWIMPS「前前前髪」

 歌謡ショー:水谷千重子×八公太郎「フレンズ音頭」

 歌謡ショー:ロバート秋山「願い」

東京03「コント:小芝居」

陣内智則「コント:セミ」

千原ジュニア「かっこいい書き方」

ナイツ「漫才:人の名前が出てこない」

バカリズム「僕と富山県

テンダラー「漫才:指輪でプロポーズ」

立川志らく「落語:死神」

 スゴい!:プラス・マイナス「漫才:引越の挨拶」

 スゴい!:佐久間一行「だ~れも悪くない・流木のある雰囲気」

 スゴい!:ショウショウ「漫才:カリオストロの城

濱田祐太郎「漫談」

神田松之丞「講談:宮本武蔵

博多華丸・大吉「漫才:万歳三唱」

爆笑問題「漫才(森友問題、セクハラ、ツッコミはパワハラ?、モト冬樹と違法飼育、学ランの刺繍)」

面白かったのは、和牛、流れ星、スピードワゴンジャルジャル、ハライチ、東京03千原ジュニア、神田松之丞。ジャルジャル、ハライチ、東京03は観たことのあるネタだったけれど、変わらず面白かった。いずれも不朽の名作である(ジャルジャルのコントはあの髪型にしたかっただけのような気がしないでもない!)。

和牛は完全に脂が乗っている状態。水田が演じる“クラブを楽しんでいる人たち”の動きは、ちょっと思い出しただけでニヤケてしまうインパクトがあった。漫才コントにあえて入らないスタイルで来た流れ星は、ほんのり新機軸を見せてきたような……記憶に残っていないだけなのかもしれないが。スピードワゴンはここにきて、名古屋出身であることを全面的にアピールした漫才を披露。まだまだ色んな表情を見せてくれる。嬉しい。千原ジュニアは新ネタ。発想もさることながらオチも鮮やかで、パフォーマーとして仕上がってきているなあと。神田松之丞は流石の熱量。番組に合わせてきた志らく師匠も見事だったが、この番組にストレートで切り込んでくる若さに魅力を感じてしまった。グウの音も出ない。

放送前に期待していた佐久間一行はややウケで終わった感。単独で披露されたバージョンよりも大衆向けにアレンジされた『だ~れも悪くない』が、良くも悪くも刺さり切らなかったような。ただ、後半の『流木のある雰囲気』は見事。ちょっとしたインテリアに始まり、ありとあらゆる場面に流木をあてがうことで、本来ならば違和感が生じるところを、それでも「確かに雰囲気がある……!」と納得させてしまう技量を見せていた。これを機会に、また呼ばれると嬉しいな。

「新世紀講談大全 神田松之丞」(2015年4月18日)

新世紀講談大全 神田松之丞 [DVD]

新世紀講談大全 神田松之丞 [DVD]

 

 (※「逢魔時の視聴覚室」にて2015年10月に公開されたものの再録記事です)

1909年に“大日本雄辯會”として設立された講談社は、その名の通り講談の速記本で人気を博した出版社だ。だが、講談社の本を愛読している人たちの中に、この事実を認識している者がどれほど居るだろうか。社名に“講談”の二文字がはっきりと記されているにも関わらず、講談と講談社の関連性について考えたことのある者がどれだけ存在しているのだろうか。……別に無頓着を責めようというわけではない。その事実を気付かせないほどに、講談は私たちの日常からかけ離れた演芸になっているということを言いたいのである。落語には日曜の夕方を代表するテレビ番組『笑点』があるが、講談には同趣向のテレビ番組が存在しないことが大きいように思う。演り手も非常に少ない。寄席演芸情報誌の『東京かわら版』が年に一度発行している「東西寄席演芸家名鑑」に掲載されている落語家の数と講談師の数を比較すると、その差は明白だ。……ここでわざわざ数えるような手間暇をかけるつもりはないので、その実態は直に確認してもらいたい。

そんな講談の世界に着目したシリーズ“新世紀講談大全”の第一弾である本作には、現在最も注目を集めている若手講談師・神田松之丞に迫ったドキュメンタリーが収録されている。松之丞がどうして今の時代に講談の世界へと身を投じようと決心したのか、彼の芸はどのように評価されているのか、これから講談の担い手として確固たる目標を抱いているのか、松之丞自身(或いは松之丞の師匠である神田松鯉)の声によって語られている。もちろん、高座もちゃんと収録されている。演じられているのは『違袖の音吉』『天保水滸伝 鹿島の棒祭り』『グレーゾーン』の三席。『音吉』『棒祭り』はいわゆる古典で、『グレーゾーン』は松之丞が自ら手掛けた新作だ。この堅苦しい演題から、時代錯誤の古臭い物語が展開するのではないかと想像した人も少なくないだろう。だが、それは間違った認識だ。確かに物語の舞台は古典的ではあるが、その内容は現代人であっても楽しめる普遍的なものである。

『違袖の音吉』は浪華三侠客の一人と称される“違袖の音吉”の幼少期を描いた演目だ。上方講談の連続物『浪花侠客傳』からの一席で、12歳の音吉が橋のド真ん中で衝突した大親分・源太源兵衛に噛みつく様子を演じている……と書くと、なんとも面倒臭そうな話に見えるかもしれないが、要するに世間から恐れられている親分に向こう見ずな子どもが啖呵を切る話である。この12歳の音吉の減らず口が非常に面白い。相手がどれだけの大物であろうが、脇差を抜こうが、真正面から勝負に持ち込まれようが、とにかく喋ることを止めようとしない。でも、理路整然としているわけではなく、しっかり慌てふためいているところが、また可笑しい。特に笑らせられたのは、大親分に脇差を抜かれて、対抗すべく自身の持ち物の中から窮地を脱するための道具を探す場面だ。大幅に脚色が施されているのだろう、それまでの流れから明らかに突出したバカバカしさだった。

続く『天保水滸伝 鹿島の棒祭り』は実在した侠客・笹川繁蔵と飯岡助五郎の争いを講談化した長編連続講談『天保水滸伝』からの抜き読みで、千葉道場の俊英だったが酒乱が故に破門となった剣客・平手造酒が笹川の用心棒となり、敵方である飯岡の用心棒と一戦を交えるまでの行程が語られている。用心棒同士が接近する様子がなんとも緊張感漂っていて、一般的に講談に持たれているイメージに近い演目だったが、これまた笑えた。しっかりと作り上げられた緊張感があるので、それが緩和される瞬間、何とも言えない面白味になるのである。飯岡の用心棒を切ろうと剣を構えた平手の目の前に謎の人物が飛び出してくる、あの絶妙な間が実にたまらない。確かな手腕に裏打ちされた冒頭の宣言も含め、非常に満足感の残る口演であった。

しかし、本作で最も多くの人たちに観てもらいたい演目は、三席目の『グレーゾーン』である。物語は二人の平凡な中学生・吉田と柿元のやりとりで幕を開ける。彼らは昼休みになると、いつも大好きなプロレスの話で盛り上がっていた。とはいえ、プロレスの話をするのは吉田ばかりで、柿元はそれを聞いて驚くだけの聞き役に徹していた。そんな二人のプロレス談義に水を差そうとする連中もいたが、彼らは……もとい吉田は理屈で言い負かした。吉田はプロレスを信じていた。そんなある日、一冊の暴露本が世に出回ることとなる。プロレスの舞台裏を明かしてしまったミスター高橋の『流血の魔術 最強の演技』である。この本の登場によって、吉田は学校から居場所を失ってしまう。そして彼は、口先だけで生きていける世界へ飛び込むことを決意する……。白とも黒とも分からない曖昧な領域、グレーゾーン。それを外から見ている私たちの勝手な願望と詮索、その中で生きている人たちの葛藤と苦悩、両方の角度から切り取った見事な一席だ。プロレス、大相撲、落語を絡めた少しマニアックな情報も、この物語に厚みを加えている。これは演者の努力ではなく制作側の話になるが、分かりにくい小ネタに解説テロップがついているのも有難い。テレビのようにスタッフの自尊心が垣間見えるような派手なテロップではなく、空気を崩さない程度の違和感無い演出に留めている配慮が素晴らしい。極論、本作はこの演目を記録するためだけに存在していると言っても、過言ではない。それほどに魅了された。熱量に飲み込まれた。後半、やや内輪ネタに偏っているが……それでも十二分に面白い。

講談は古い。そんなイメージがあるのは百も承知だ。でも、一つ思い切って、その敷居を越えてきてもらいたい。一歩、一歩踏み出すだけでいい。その一歩を踏み出す勇気があったなら、最初に本作を足掛かりにしてもらいたい。神田松之丞、1983年6月4日生まれの現代人が、現代の言葉でもって普遍的な笑いを含んだ物語を繰り広げている。これを観れば、きっと講談の世界の自由さに興味を抱くはずだ。いや、抱かなくてもいい。

本作は文字通り、必見である。

■本編【110分】
「神田松之丞インタビュー」

「違袖の音吉(2014年5月10日・末廣深夜寄席)」

「神田松之丞インタビュー」

「師匠 神田松鯉インタビュー」

「天保水滸伝 鹿島の棒祭り(2015年2月14日・末廣深夜寄席)」

「神田松之丞インタビュー」

「グレーゾーン(2014年12月26日・神田連雀亭)」

「神田松之丞インタビュー」

「人を傷つけない笑い」と佐久間一行。

4月7日放送予定の「ENGEIグランドスラム」に佐久間一行が出演する。

他の出演者が推薦する“今、この芸人がすごい!”という特別枠での出演らしい。「R-1ぐらんぷり2011」王者である佐久間が、どうして特別に設けられた枠で出演させられるのか、些か理解に苦しむ。番組に出演するためのハードルを上げて、番組のタイトルをブランド化しようとしているように見える。演芸番組が何を偉そうに……と思わなくもないが、とはいえ影響力のある番組への出演は喜ばしいことである。

しかも、既出の報道によれば、どうやら佐久間は『井戸』ではないネタを披露したらしい。確かに『井戸』はR-1優勝に貢献した名作である。陽気なメロディとともに踊り出す井戸自体のお化けに扮した佐久間の姿は、見ているだけで気持ちがホンワカさせられる。傑作といってもいい。だが、何度も何度も同じネタばかり見させられては、どうしても飽きてしまうのが人の常というものだ。

それなのに、R-1優勝後の佐久間は、とにもかくにも『井戸』のネタをやらされていた。先日もとあるネタ番組で久しぶりに佐久間がネタをするというので見ていたら『井戸』のネタだった。口惜しかった。私は別に佐久間のファンではなかったが、彼が他にも面白いネタを持っていることを知っていた。もっと面白いネタがあるのに、どうして未だに『井戸』をやらなくてはならないのか……否、世間に見せなくてはならないのか。その悔しさが今、ここで晴れるわけである。『井戸』以外での番組への出演をきっかけに佐久間がバカ売れしてくれることを祈るばかりだ。

……と、ここまで私が佐久間を持ち上げるのには理由がある。佐久間はいわゆる「人を傷つけない笑い」をコンスタントに生み出している希有な芸人だからだ。

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「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2017」

こんばんは。

一年ぶりにアレをやります。ではルール。

・このランキングは筆者が一方的に決め付けたランキングである。

・このランキングは2017年にリリースされた全ての作品を対象としているわけではない。

・このランキングは雰囲気で決めているので、後で意見が変わる可能性も否めない。

・だからあんま真に受けるなよ。

こんな感じです。

あ、そうだ。謝罪があります。今年こそ、もっと早めに開催するつもりだったのですが、まさかまさかの昨年よりも遅くなってしまいました。申し訳ないです。まあ、この企画のことを、そこまで本意気に捉えている人もいないでしょうし、だからこそ、今頃になっての2017年総決算企画であります。

それにしても、2017年の選出は大変でした。あまりにも豊作で。正直、「あっ、これはベスト10に入るレベルの出来だな」と思っていた作品が、第11位以下にズラリと並んでおります。具体的に挙げると、『小林賢太郎最新コント公演 カジャラ #1 『大人たるもの』』『だーりんずベストネタ集「カツライブ」』『シソンヌライブ [cinq]』『天竺鼠5』あたりは、例年ならば余裕で入っていたと思います。……いや、実際のところは、どうなっていたのか分からないですけどね。でも、それぐらいに、どの作品も面白かったです。逆にいえば、いっくらでも変動するであろうランキングになっております。

なので、ユルーい感じで、お楽しみください。

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