白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「このお笑い芸人DVDがスゴかった!2017」

こんばんは。

一年ぶりにアレをやります。ではルール。

・このランキングは筆者が一方的に決め付けたランキングである。

・このランキングは2017年にリリースされた全ての作品を対象としているわけではない。

・このランキングは雰囲気で決めているので、後で意見が変わる可能性も否めない。

・だからあんま真に受けるなよ。

こんな感じです。

あ、そうだ。謝罪があります。今年こそ、もっと早めに開催するつもりだったのですが、まさかまさかの昨年よりも遅くなってしまいました。申し訳ないです。まあ、この企画のことを、そこまで本意気に捉えている人もいないでしょうし、だからこそ、今頃になっての2017年総決算企画であります。

それにしても、2017年の選出は大変でした。あまりにも豊作で。正直、「あっ、これはベスト10に入るレベルの出来だな」と思っていた作品が、第11位以下にズラリと並んでおります。具体的に挙げると、『小林賢太郎最新コント公演 カジャラ #1 『大人たるもの』』『だーりんずベストネタ集「カツライブ」』『シソンヌライブ [cinq]』『天竺鼠5』あたりは、例年ならば余裕で入っていたと思います。……いや、実際のところは、どうなっていたのか分からないですけどね。でも、それぐらいに、どの作品も面白かったです。逆にいえば、いっくらでも変動するであろうランキングになっております。

なので、ユルーい感じで、お楽しみください。

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2018年4月の入荷予定

11「南海キャンディーズ初単独ライブ「他力本願」

25「ハリウッドザコシショウのものまね100連発ライブ!SEASON2

「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」とはよく言ったもので、気が付けば四月である。新年度ということで、社会人としては多少は盛り上がるべきなのだろうが、生憎の体調不良でとてもじゃないがテンションは上がらない。もとい三月中は基本的にそういうトーンになっていた。よもや花粉症にでもなってしまったのであろうか。勘弁してほしいなあ。とにもかくにもやってきた四月。新しい年度の始まりに相応しく、あの人気男女コンビ・南海キャンディーズの初めてのソフトが遂にリリース! M-1の衝撃から十五年と半年も経っていることを思うと、どんだけ待たせたんだと思わなくもないけれど、何はともあれ楽しみ楽しみ。もちろん、ザコシの新作も楽しみ楽しみ。まさか第二弾がリリースされるとは思わなかった……!

「KAJALLA #3 働けど 働けど」鑑賞旅行(2018年3月24日~25日)

午前六時、起床。

午前七時、家を出る。朝食は前日に購入していたコンビニのおにぎりで済ませる。チキン南蛮、ベーコン鰹、鶏肉三昧の三種。朝から食べるには油っこいチョイスになってしまったことを少し後悔する。

午前八時、出発地である善通寺高速バスターミナルに到着。

午前八時半にバスがやってきたので、速やかに乗り込んで出発する。移動中はradikoで「古館伊知郎のオールナイトニッポンGOLD」を聴く。真面目な話も下品な話も自然に乗りこなすバランス感が心地良い。

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「KAJALLA #2「裸の王様」」(2018年2月28日)

小林賢太郎コント公演 カジャラ#2『裸の王様』Blu?ray [Blu-ray]

小林賢太郎コント公演 カジャラ#2『裸の王様』Blu?ray [Blu-ray]

 

2017年3月から5月にかけて、東京・豊橋・大阪・静岡を巡った公演を収録。

ラーメンズの頭脳として、数多くの名作コントを生み出してきた小林賢太郎が作・演出を手掛けているコントユニット“KAJALLA”による二度目のコントライブの模様が収められている。出演は、久ヶ沢徹竹井亮介菅原永二、辻本耕志、小林賢太郎の五名。竹井、辻本、小林は第一回公演『カジャラ #1 『大人たるもの』』に引き続いての出演となる。……その前回において、久しぶりにラーメンズの共演を目の当たりにして激しくコーフンした者としては、片桐仁の不在が些か残念。また、いつの日か、召喚される日が来ればいいのだが。

『大人たるもの』はオーソドックスなコントの再構築を目指した公演だったように感じられたが、それに比べて、本作で演じられているコントは良くも悪くも力が抜けている。小林賢太郎による演劇公演“KKP”において、筋肉アニキキャラが浸透していた久ヶ沢の登板によって、些か空気が和やかになったためかもしれない。自分の国“オレランド”があったとしたら、そこにはどのような施設や娯楽が溢れているだろうか……と想像する『オレランド』。用があって外出するという鍛冶屋の親方が、三人の弟子たちに毒の入った壺には絶対に触れないようにと気になる言いつけを残す『毒と鍛冶屋ら』。理不尽な言動で相手を再起不能に追い詰める格闘技“RIFUZIN”の緊迫した試合を展開させる『RIFUZIN』。何処を切ってもバカバカしい笑いで満ち溢れている。

その中でも、笑いながらも大いに驚かされたコントが『バニーガード』。全ての社員が頭にバニーの耳を装着している不思議な警備会社“バニーガード”へと再就職にやってきたナゴヤが、バニーたちのナンセンスな会話のやり取りに翻弄され続ける様子が描かれている。このコントには、なんと過去のラーメンズの単独公演に登場した、とあるキャラクターが再登場しているのである。ネタバレになってしまうので、具体的な内容については伏せておくが(タイトルで既にバレてしまっている気がしないでもない)、連続して開催される単独ライブ内でシリーズとして取り扱っていたならいざ知らず、もう十年以上も前の単独ライブに登場した名物キャラクターをいきなり復活させてきたのには驚いた。否、復活したこと以上に、あの小林賢太郎が復活させたことに驚いた。もっと普遍的で観客を差別しない笑いを志しているイメージがあったのだが。年齢を重ねたことで、より柔軟なスタンスを取れるようになったのだろうか。だとすれば、大変に喜ばしいのだが。

ただ、最も楽しませてもらったのは、前回の公演でも披露された「特定のシチュエーション」の中で行われる様々なショートコント集。前回は「診察」に限定した数々のナンセンスコントが演じられていたが、今回の舞台は「オフィス」。スーツを着たサラリーマンたちが、会社の中で縦横無尽にボケまくる。どのネタも面白かったが、個人的には『丘を越えゆこうよ』がベスト。三人のプロフェッショナルによる極上の悪ふざけを堪能させてもらった。

そしてオーラスのコント『裸の王様 ~春夏秋冬~』。正直なところ、極上と呼ぶに相応しいコントでとことん笑わせられた後で、ここまでシンプルな寓話を見せつけられると、なんだか少し興醒めしてしまう。無論、笑いどころは多かったし、最後のダンスパフォーマンスも楽しかったのだが……なんというか「言われなくても分かってるよ、そんなことは」と思ってしまう。それでも、上手く噛み合わないからこそ、世の中はややこしく、だからこそ面白い側面もあるんじゃないか、と。無論、寓話として作られた物語に対して、このようなツッコミを入れるのは無粋なのだろうが、これを良しとするスタンスはどうも私は受け入れがたい。……あくまで、私が受け入れがたいというだけの話であって、こういうのが好きだという人がいても何も問題はない。念のため。

とはいえ、全体的に見れば、楽しい公演である。久ヶ沢は人柄の見えるキャラクターで笑いを巻き起こしているし、辻本は意外なほど多種多様な演技で笑いを引き出すし、竹井はボケもツッコミも器用にこなすし、菅原はいわゆる芸人のものではない演技で観客を世界へと引き入れている。それぞれがそれぞれに魅力を放っている。それだけで、まあ、良しとしてもいいのかもしれない。……でもなあ。

■本編【114分】

「オレランド」「毒と鍛冶屋ら」「尋問」「RIFUZIN」「社長の例え話/馬鹿部長馬鹿部下/名刺交換/丘を越えゆこうよ/入れ替わる社長」「考える人」「バニーガード」「裸の王様 ~春夏秋冬~」

「所ジョージ LIVE 絶滅の危機」(2018年3月21日)

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

 

2000年2月9日にサウンドインスタジオで行われたスタジオライブを収録。

1998年4月から2000年3月にかけて放送されていた音楽番組「MUSIC HAMMER」でメインパーソナリティを務めていた所ジョージが、番組の企画として半ば強制的に敢行させられたライブの模様が収められている。前半は朋友・坂崎幸之助とのアコースティックギター弾き語りデュオ、後半は井上鑑らプロのミュージシャンを招いてのバンド演奏という構成。当時、番組の公式サイト限定で販売されていたVHSが、この度DVD化されて市販化された次第である。何故に今。

披露されている楽曲は、当時リリースされたアルバム『洗濯脱水』の収録曲を中心に、過去の名曲や新曲が散りばめられている。

洗濯脱水

洗濯脱水

 

特に前半パートにおける吉田拓郎リスペクト(?)曲は聴きごたえがある。『リンゴ』から生まれた『西瓜』、『せんこう花火』から生まれた『打ち上げ花火』、『まにあうかもしれない』から生まれた『まにあわない』などなど……原曲を知っていても、知らなかったとしても、なんだかバカバカしくてニヤケてしまう。その一方で、『後悔してます』『酒と肴と酒と酒』『ご自由にどうぞ』のような、真面目な曲はしっとりと。オジサンが年相応に歌っている姿が、なんだか不思議と愛おしい。

ところで、このライブの音源が二枚組のCDとして2000年3月にリリースされているのだが、そちらには収録されていなかった二人が原曲を口ずさむくだりが、こちらにはバッチリ収められている。この他にも、けっこうな量のカットシーンが見受けられた。よもや『ポテッ!』がピーター・ポール&マリーの『パフ』から来ているとは思わなかった。不老のドラゴンがふくよかな女性に大変身である。どうしてそうなった。

LIVE 絶滅の危機

LIVE 絶滅の危機

 

見どころはやはり、所と坂崎の軽妙なやりとりだろうか。テッテ的にテキトーなことを言い続ける所の発言に対して、ツッコミを入れるでもなく、とはいえ乗っかるでもなく、柔らかな物腰で受け止めていく坂崎の絶妙なバランス感がたまらない。お互いに気を使わない地の関係性が伺える。音楽面としては、坂崎のギターテクニックがあまりにもすんごい『泳げたいやき屋のおじさん』が至極。それから、バックバンドを従えての『恋の唄』。坂崎とコーラス参加の篠原ともえのハーモニーが美しい。もとい、バックバンドを従えてからの演奏は、どれもこれも素晴らしい。『ラクダの商人』『僕の犬』『農家の唄』……たった五人のメンバーによる演奏とは思えない重厚さ。

しかし、一番の見どころは……そんなバックバンドによる演奏が終わり、最後は弾き語りによる『春二番』が披露される……前に、所と坂崎がお互いの関係性について語り始め、なんと坂崎の演奏による『bittersweet samba』に載せて、所が提供読みを始めるくだり! これもCDにはないシーンだったので、素直にコーフンしてしまった。

アーティストとして最も豊潤だった時代に、氏の代表曲と軽妙なスタンスを適切に切り取っている本作は、ミュージシャン・所ジョージを知るに最適な入門書といえるだろう。普段のバラエティでは決して見せることのない、所の自然体の奥に潜む作り手としての深みを感じてほしい。

これからもブルーなレイにしてくれますか?

今年、芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベル“コンテンツリーグ”から、初めてのブルーレイ作品がリリースされた。

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

 

嬉しい。とても嬉しい。昨今、映画やテレビドラマがブルーレイでリリースされるのが当たり前になってきているにも関わらず、こと芸人の映像作品に関しては、その需要の少なさからか大半がDVDのみのリリースに留まっていた。しかし、本来ならば、高画質・高音質を謳っているブルーレイこそ芸人の舞台を映像で再現するに相応しい媒体なのである。その偉大なる一歩をコンテンツリーグは踏み出したわけだ。しつこく言おう。嬉しい。とても嬉しい。

しかし、その一方で気になっていることもある。恐らく、今後も東京03の作品に関しては、DVDとブルーレイが同時にリリースされていくのは間違いない。売り上げが大幅に減少するようになれば話は別だが、少なくともこれっきりということはないだろう。では、このブルーレイでのリリース、他の芸人にも適用されるのだろうか?

本文の冒頭でも書いたように、コンテンツリーグは芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベルである。無論、東京03だけではなく、他にも様々な芸人の映像を世に送り出している。そんな彼らの作品がどれほどの売り上げを叩き出しているのか、門外漢である私には分かりかねるが、一年に一枚のペースで新作を発売している芸人も少なくないことを思うと、決して悪くはないのだろうと思われる。

否、そもそも当の芸人にとって、自身の作品をブルーレイにするということは、どういう感覚なのだろうか。高画質・高音質で楽しんでもらいたいと思っているのだろうか。それとも、映像ソフトはそれなりの画質・音質で、ナマの舞台こそを見てもらいたいと考えているのだろうか。或いは、何も思い入れなどはなく、とりあえず小銭を稼ごうという程度にしか考えていないのかもしれない……と、こちらが忖度すればするほど、他の芸人によるブルーレイ展開が無さそうな気がしてならない。

でも、やっぱり、どうせならブルーレイで出してほしいんだよなあ。舞台の空気が再現された瞬間を味わいたいんだよなあ。

「R-1ぐらんぷり2018」決勝戦の雑感。

見て、思ったことを。

Aブロックは圧倒的にカニササレ アヤコ。審査員も視聴者投票も点数が低すぎて、ちょっと驚いた。番組内では「不思議」などという味気ないコメントで処理されていたが、非常によく出来たネタ。存在そのものは広く認知されているものの、具体的な詳細に関してはあまり語られることのない“雅楽”というニッチなジャンルから、それについての知識を持たない観客に揺さぶりをかけるスタイルは、マイノリティからの反逆を思わせ、なかなかに爽快だった。他の芸人たちが、いずれもマイノリティに対して厳しい切り込み方をしているネタを演じていたので、余計にそう感じたのかもしれない(特にルシファー吉岡のネタは「しょうが」というコミカルなワードに置き換えてはいたものの、その状況は、我が子の性嗜好を頑なに認めない親という構図であることには変わりなく、時代の流れに反しているように感じられた)。

Bブロックは全体的にやや弱め。いずれも淀みのない直球のネタに臨んでいたためだろう。とはいえ、だからこそ微かに物足りない。そう考えると、昭和の女優風の台詞回しをリミックスすることで、丁寧にヘンテコな空気を作り上げていくひねくれコントを見せたゆりやんレトリィバァの勝ち上がりは打倒といえるのかもしれない……が、よもやあんなチョコレートプラネット長田と僅差になろうとは。対して、Cブロックは技巧派揃い。目が殆ど見えないことを武器にするだけでなく話術の面でも確かな技術力を見せつけた濱田祐太郎、底が抜けるほどにドイヒーな女を様々な角度から演じ切った紺野ぶるま、今の自らの見られ方を理解した上でワードセンスと構成を駆使したフリップネタを作り上げた霜降り明星 粗品、あまりにも優しくて温かな世界を決して下に見せることなく笑いに昇華してみせたマツモトクラブ……それぞれがそれぞれの魅力を存分に見せつけた。

ファイナルステージ。予選でハゲのおじさんと入れ替わってしまった女子高生のコントを披露したおぐは、予選をフリにした最高の二本目。やけに出来上がったシチュエーションの中で披露されるあるあるネタとアグレッシブなダンスを融合させたゆりやんレトリィバァは、その方向性の見えなさが相変わらず変に魅力的。濱田祐太郎は二本目もがっつりと自身の状態をネタにした漫談を披露、話の上手さがここでも光る。言葉選びの上手いのなんの。

優勝は濱田祐太郎。大納得!(個人の感想は元気があれば後日)

「ナイツ独演会 味のない氷だった」(2018年1月31日)

ナイツ独演会 味のない氷だった [DVD]

ナイツ独演会 味のない氷だった [DVD]

 

2017年10月から11月にかけて全国九か所を巡った独演会ツアーより、横浜にぎわい座での公演を収録。

まずは表パッケージを確認。ビッグフットに扮した二人が、雪山の頂上に突き立てられた巨大なかき氷をスプーン型ストローでしゃくっているイラストが描かれている。ライブのチラシにも使用されていたこのイラストは、前作と同様に漫画家のルノアール兄弟が手掛けたものだ。サブカル界隈でその名を目にすることの多いルノアール兄弟と、浅草を中心に活動している寄席芸人のナイツにどのような関係にあるのかは知らないが(なんとなくは分かるけれど)、この妙にアンバランスな組み合わせが実に味わい深い。ちなみに、このイラストの元にもなっているライブタイトルは、過去の独演会と同様、彼らの師匠である内海桂子のツイートから抜粋されている(そのツイートの具体的な内容に関しては、本編の中で言及されているので、各々でご確認いただきたい)。

続いて、裏パッケージを確認。本公演の概要が長々と記載されている。概要なのに長いとはどういうことだ。それによると、どうやら2017年は塙がヤホーで調べてきたいい加減な知識を延々と喋り続ける“ヤホー漫才”のスタイルが誕生して、ちょうど十周年を迎える年になるらしい。あのショートネタブームをつい先日のことのように捉えている身としては、隔世の感を禁じ得ない。そこで本公演では、過去にナイツが作り上げてきた“ヤホー漫才”の全てのテーマを並べ立てて、その中から観客が観たい“ヤホー漫才”をリクエスト、即座にナイツがネタを披露するという企画「祝!ヤホー漫才10周年」が行われているとのこと。

心ゆくまでパッケージを楽しんだところで、いよいよ本編を再生。お馴染みの中津川弦による前説で幕を開けてからは、微塵の歪みも見られない珠玉の漫才が次々に披露されていく。否、冷静に見つめてみると、塙がまるで自らが2017年の様々な事件の主要人物であったかのように話し始める『2017年をヤホーで調べました』も、塙のエピソードトークの中にある特定のワードが散りばめられていることが発覚する『笑棋』も、土屋が歌い上げる名曲の歌詞に対して塙が的外れなツッコミを入れていくナイツの新手法に新たな展開が生まれる『私がオバコンになっても』も、手法だけだと完全にトリッキー。そこらの若手漫才師が同じことをやったとしても、大した笑いには繋げられないだろう。『私がオバコンになっても』に至っては、演ったら怒られるかもしれない。だが、ナイツの場合、確かに培われてきた漫才師としての話術があるため、このような悪ふざけのようなネタでも漫才として成立させられてしまう。かつて「大阪人の界隈はそのまま漫才になる」という都市伝説があったが、ナイツはもはやその領域に達してしまっていると言ってもいいのかもしれない。実に恐るべき技量である。

とりわけ、その芸の凄まじさを感じさせられたのが『MURO・ん…○っぽい』。タイトルは冗談のようだが、内容は冗談じゃ済まされない。その内容とは、いつもの土屋のツッコミに飽きてしまったという塙が、まったく新しいツッコミをやってほしいと頼み込むのだが、結果的に見覚えのある漫才スタイルになってしまう……というもの。この再現性が大変に良い。寸前までナイツの漫才をやっていた筈なのに、次の瞬間には、その漫才師のスタイルのトーンになってしまっている。否、それだけならば、練習すればなんとか出来ることなのかもしれない。だが、ナイツの場合、その漫才師のスタイルを始めてしまっていることを観客に気付かせるまでの時間が、とんでもなく短いのである。これはつまり、ナイツが如何に他の漫才師のネタを研究し、感じ取り、その漫才の最も個性となる部分を最低限に切り取れているかということでもある。それも「スゴい!」ではなく「面白い!」「笑える!」に転化して。しれっとやってしまっていいことではないのである。まったく。

なお、本公演では披露されていた『青春ワイプ』が、本編には収録されていない。実在の人物の似顔絵などが使われているネタなので、ちょっと版権的に難しかったのかもしれない。ただ、その代わりに、各公演で一本ずつ披露されていた日替わり漫才が二本収録されている(『レストラン』と『夢芝居』)。そのことに不満はないのだが、日替わり漫才は他の芸人に台本を書いてもらっているようなので、誰が書いたネタだったのかは教えてもらいたかったような気もする。

あと、少しだけ残念だったのは、パッケージ裏であれだけ大々的に盛り上げようとしていた“ヤホー漫才”企画が、本編に収録されている横山にぎわい座で撮影された映像しか収められていなかったこと。折角の十周年なのだから、各地のヤホー漫才をダイジェストで収録するというような、ちょっと特別な映像を付け足しても良かったのではないか。少なくとも私は、特典にそういった映像があるものだと思っていた。連続性のある企画なわけだし……。

そして最後は“お楽しみ”。毎回、独演会では、ナイツの漫才以外のパフォーマンスを楽しめる“お楽しみ”の時間が設けられている。今回の“お楽しみ”は、芸人・ミュージシャンのはなわが2017年にリリースした感動の名曲『お義父さん』を使って、実の弟である塙がとある人物のことを替え歌にして歌い上げている。無論、面白おかしい歌詞になっているのだが、そのあまりにも壮絶な内容は笑っていいのか少しだけ迷ってしまう(そのあまりにもあまりな内容のため、浜松公演でゲスト出演していたニッチェの江上が泣いてしまっている姿を特典映像で確認できる)。トールケース内に歌詞カードも収められているので、カラオケで歌ってみてはどうだろうか。オススメはしないが。

これら本編に加えて、特典映像として「Documentary of ナイツ独演会 味のない氷だった」を収録。文字通り、ライブツアーを追ったドキュメンタリーなのだが、こういった特典にありがちなプライベートな映像などが殆ど収められておらず、ちょっとだけ物足りない。とはいえ、サンドウィッチマンのライブツアーにサプライズで登場したシーンや、ゲストとして出演したぼんちおさむと幕で軽い雑談を交わしているシーンなど、思わず目を見張るシーンもあって、なんだかんだでしっかりと楽しんでしまった。

というわけで、今回も満足度の高い作品を提供してくれたナイツだけれど、編集次第ではもうちょっと魅力的な作品になりそうな気もして、なんだかもどかしい。漫才師としてはかなり素晴らしいところまで上がり切っているので、あとは彼らを支えるスタッフ次第なのだろう。ただ、そのアンバランスさが、ある意味では魅力的といえるのかもしれない……でも、もうちょっと、映像ソフトとしての精度上げてもらえると助かります。よろしくお願いします。

■本編【93分】

「2017年をヤホーで調べました」「MURO・ん…○っぽい」「笑棋」「レストラン」「祝!ヤホー漫才10周年」「私がオバコンになっても」「夢芝居」「小さな協会」「お義父さん」

■特典映像【23分】

「Documentary of ナイツ独演会 味のない氷だった」