白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

「所ジョージ LIVE 絶滅の危機」(2018年3月21日)

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

 

2000年2月9日にサウンドインスタジオで行われたスタジオライブを収録。

1998年4月から2000年3月にかけて放送されていた音楽番組「MUSIC HAMMER」でメインパーソナリティを務めていた所ジョージが、番組の企画として半ば強制的に敢行させられたライブの模様が収められている。前半は朋友・坂崎幸之助とのアコースティックギター弾き語りデュオ、後半は井上鑑らプロのミュージシャンを招いてのバンド演奏という構成。当時、番組の公式サイト限定で販売されていたVHSが、この度DVD化されて市販化された次第である。何故に今。

披露されている楽曲は、当時リリースされたアルバム『洗濯脱水』の収録曲を中心に、過去の名曲や新曲が散りばめられている。

洗濯脱水

洗濯脱水

 

特に前半パートにおける吉田拓郎リスペクト(?)曲は聴きごたえがある。『リンゴ』から生まれた『西瓜』、『せんこう花火』から生まれた『打ち上げ花火』、『まにあうかもしれない』から生まれた『まにあわない』などなど……原曲を知っていても、知らなかったとしても、なんだかバカバカしくてニヤケてしまう。その一方で、『後悔してます』『酒と肴と酒と酒』『ご自由にどうぞ』のような、真面目な曲はしっとりと。オジサンが年相応に歌っている姿が、なんだか不思議と愛おしい。

ところで、このライブの音源が二枚組のCDとして2000年3月にリリースされているのだが、そちらには収録されていなかった二人が原曲を口ずさむくだりが、こちらにはバッチリ収められている。この他にも、けっこうな量のカットシーンが見受けられた。よもや『ポテッ!』がピーター・ポール&マリーの『パフ』から来ているとは思わなかった。不老のドラゴンがふくよかな女性に大変身である。どうしてそうなった。

LIVE 絶滅の危機

LIVE 絶滅の危機

 

見どころはやはり、所と坂崎の軽妙なやりとりだろうか。テッテ的にテキトーなことを言い続ける所の発言に対して、ツッコミを入れるでもなく、とはいえ乗っかるでもなく、柔らかな物腰で受け止めていく坂崎の絶妙なバランス感がたまらない。お互いに気を使わない地の関係性が伺える。音楽面としては、坂崎のギターテクニックがあまりにもすんごい『泳げたいやき屋のおじさん』が至極。それから、バックバンドを従えての『恋の唄』。坂崎とコーラス参加の篠原ともえのハーモニーが美しい。もとい、バックバンドを従えてからの演奏は、どれもこれも素晴らしい。『ラクダの商人』『僕の犬』『農家の唄』……たった五人のメンバーによる演奏とは思えない重厚さ。

しかし、一番の見どころは……そんなバックバンドによる演奏が終わり、最後は弾き語りによる『春二番』が披露される……前に、所と坂崎がお互いの関係性について語り始め、なんと坂崎の演奏による『bittersweet samba』に載せて、所が提供読みを始めるくだり! これもCDにはないシーンだったので、素直にコーフンしてしまった。

アーティストとして最も豊潤だった時代に、氏の代表曲と軽妙なスタンスを適切に切り取っている本作は、ミュージシャン・所ジョージを知るに最適な入門書といえるだろう。普段のバラエティでは決して見せることのない、所の自然体の奥に潜む作り手としての深みを感じてほしい。

これからもブルーなレイにしてくれますか?

今年、芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベル“コンテンツリーグ”から、初めてのブルーレイ作品がリリースされた。

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

第19回東京03単独公演「自己泥酔」 [Blu-ray]

 

嬉しい。とても嬉しい。昨今、映画やテレビドラマがブルーレイでリリースされるのが当たり前になってきているにも関わらず、こと芸人の映像作品に関しては、その需要の少なさからか大半がDVDのみのリリースに留まっていた。しかし、本来ならば、高画質・高音質を謳っているブルーレイこそ芸人の舞台を映像で再現するに相応しい媒体なのである。その偉大なる一歩をコンテンツリーグは踏み出したわけだ。しつこく言おう。嬉しい。とても嬉しい。

しかし、その一方で気になっていることもある。恐らく、今後も東京03の作品に関しては、DVDとブルーレイが同時にリリースされていくのは間違いない。売り上げが大幅に減少するようになれば話は別だが、少なくともこれっきりということはないだろう。では、このブルーレイでのリリース、他の芸人にも適用されるのだろうか?

本文の冒頭でも書いたように、コンテンツリーグは芸人の映像作品を主に取り扱っているレーベルである。無論、東京03だけではなく、他にも様々な芸人の映像を世に送り出している。そんな彼らの作品がどれほどの売り上げを叩き出しているのか、門外漢である私には分かりかねるが、一年に一枚のペースで新作を発売している芸人も少なくないことを思うと、決して悪くはないのだろうと思われる。

否、そもそも当の芸人にとって、自身の作品をブルーレイにするということは、どういう感覚なのだろうか。高画質・高音質で楽しんでもらいたいと思っているのだろうか。それとも、映像ソフトはそれなりの画質・音質で、ナマの舞台こそを見てもらいたいと考えているのだろうか。或いは、何も思い入れなどはなく、とりあえず小銭を稼ごうという程度にしか考えていないのかもしれない……と、こちらが忖度すればするほど、他の芸人によるブルーレイ展開が無さそうな気がしてならない。

でも、やっぱり、どうせならブルーレイで出してほしいんだよなあ。舞台の空気が再現された瞬間を味わいたいんだよなあ。

「R-1ぐらんぷり2018」決勝戦の雑感。

見て、思ったことを。

Aブロックは圧倒的にカニササレ アヤコ。審査員も視聴者投票も点数が低すぎて、ちょっと驚いた。番組内では「不思議」などという味気ないコメントで処理されていたが、非常によく出来たネタ。存在そのものは広く認知されているものの、具体的な詳細に関してはあまり語られることのない“雅楽”というニッチなジャンルから、それについての知識を持たない観客に揺さぶりをかけるスタイルは、マイノリティからの反逆を思わせ、なかなかに爽快だった。他の芸人たちが、いずれもマイノリティに対して厳しい切り込み方をしているネタを演じていたので、余計にそう感じたのかもしれない(特にルシファー吉岡のネタは「しょうが」というコミカルなワードに置き換えてはいたものの、その状況は、我が子の性嗜好を頑なに認めない親という構図であることには変わりなく、時代の流れに反しているように感じられた)。

Bブロックは全体的にやや弱め。いずれも淀みのない直球のネタに臨んでいたためだろう。とはいえ、だからこそ微かに物足りない。そう考えると、昭和の女優風の台詞回しをリミックスすることで、丁寧にヘンテコな空気を作り上げていくひねくれコントを見せたゆりやんレトリィバァの勝ち上がりは打倒といえるのかもしれない……が、よもやあんなチョコレートプラネット長田と僅差になろうとは。対して、Cブロックは技巧派揃い。目が殆ど見えないことを武器にするだけでなく話術の面でも確かな技術力を見せつけた濱田祐太郎、底が抜けるほどにドイヒーな女を様々な角度から演じ切った紺野ぶるま、今の自らの見られ方を理解した上でワードセンスと構成を駆使したフリップネタを作り上げた霜降り明星 粗品、あまりにも優しくて温かな世界を決して下に見せることなく笑いに昇華してみせたマツモトクラブ……それぞれがそれぞれの魅力を存分に見せつけた。

ファイナルステージ。予選でハゲのおじさんと入れ替わってしまった女子高生のコントを披露したおぐは、予選をフリにした最高の二本目。やけに出来上がったシチュエーションの中で披露されるあるあるネタとアグレッシブなダンスを融合させたゆりやんレトリィバァは、その方向性の見えなさが相変わらず変に魅力的。濱田祐太郎は二本目もがっつりと自身の状態をネタにした漫談を披露、話の上手さがここでも光る。言葉選びの上手いのなんの。

優勝は濱田祐太郎。大納得!(個人の感想は元気があれば後日)

「ナイツ独演会 味のない氷だった」(2018年1月31日)

ナイツ独演会 味のない氷だった [DVD]

ナイツ独演会 味のない氷だった [DVD]

 

2017年10月から11月にかけて全国九か所を巡った独演会ツアーより、横浜にぎわい座での公演を収録。

まずは表パッケージを確認。ビッグフットに扮した二人が、雪山の頂上に突き立てられた巨大なかき氷をスプーン型ストローでしゃくっているイラストが描かれている。ライブのチラシにも使用されていたこのイラストは、前作と同様に漫画家のルノアール兄弟が手掛けたものだ。サブカル界隈でその名を目にすることの多いルノアール兄弟と、浅草を中心に活動している寄席芸人のナイツにどのような関係にあるのかは知らないが(なんとなくは分かるけれど)、この妙にアンバランスな組み合わせが実に味わい深い。ちなみに、このイラストの元にもなっているライブタイトルは、過去の独演会と同様、彼らの師匠である内海桂子のツイートから抜粋されている(そのツイートの具体的な内容に関しては、本編の中で言及されているので、各々でご確認いただきたい)。

続いて、裏パッケージを確認。本公演の概要が長々と記載されている。概要なのに長いとはどういうことだ。それによると、どうやら2017年は塙がヤホーで調べてきたいい加減な知識を延々と喋り続ける“ヤホー漫才”のスタイルが誕生して、ちょうど十周年を迎える年になるらしい。あのショートネタブームをつい先日のことのように捉えている身としては、隔世の感を禁じ得ない。そこで本公演では、過去にナイツが作り上げてきた“ヤホー漫才”の全てのテーマを並べ立てて、その中から観客が観たい“ヤホー漫才”をリクエスト、即座にナイツがネタを披露するという企画「祝!ヤホー漫才10周年」が行われているとのこと。

心ゆくまでパッケージを楽しんだところで、いよいよ本編を再生。お馴染みの中津川弦による前説で幕を開けてからは、微塵の歪みも見られない珠玉の漫才が次々に披露されていく。否、冷静に見つめてみると、塙がまるで自らが2017年の様々な事件の主要人物であったかのように話し始める『2017年をヤホーで調べました』も、塙のエピソードトークの中にある特定のワードが散りばめられていることが発覚する『笑棋』も、土屋が歌い上げる名曲の歌詞に対して塙が的外れなツッコミを入れていくナイツの新手法に新たな展開が生まれる『私がオバコンになっても』も、手法だけだと完全にトリッキー。そこらの若手漫才師が同じことをやったとしても、大した笑いには繋げられないだろう。『私がオバコンになっても』に至っては、演ったら怒られるかもしれない。だが、ナイツの場合、確かに培われてきた漫才師としての話術があるため、このような悪ふざけのようなネタでも漫才として成立させられてしまう。かつて「大阪人の界隈はそのまま漫才になる」という都市伝説があったが、ナイツはもはやその領域に達してしまっていると言ってもいいのかもしれない。実に恐るべき技量である。

とりわけ、その芸の凄まじさを感じさせられたのが『MURO・ん…○っぽい』。タイトルは冗談のようだが、内容は冗談じゃ済まされない。その内容とは、いつもの土屋のツッコミに飽きてしまったという塙が、まったく新しいツッコミをやってほしいと頼み込むのだが、結果的に見覚えのある漫才スタイルになってしまう……というもの。この再現性が大変に良い。寸前までナイツの漫才をやっていた筈なのに、次の瞬間には、その漫才師のスタイルのトーンになってしまっている。否、それだけならば、練習すればなんとか出来ることなのかもしれない。だが、ナイツの場合、その漫才師のスタイルを始めてしまっていることを観客に気付かせるまでの時間が、とんでもなく短いのである。これはつまり、ナイツが如何に他の漫才師のネタを研究し、感じ取り、その漫才の最も個性となる部分を最低限に切り取れているかということでもある。それも「スゴい!」ではなく「面白い!」「笑える!」に転化して。しれっとやってしまっていいことではないのである。まったく。

なお、本公演では披露されていた『青春ワイプ』が、本編には収録されていない。実在の人物の似顔絵などが使われているネタなので、ちょっと版権的に難しかったのかもしれない。ただ、その代わりに、各公演で一本ずつ披露されていた日替わり漫才が二本収録されている(『レストラン』と『夢芝居』)。そのことに不満はないのだが、日替わり漫才は他の芸人に台本を書いてもらっているようなので、誰が書いたネタだったのかは教えてもらいたかったような気もする。

あと、少しだけ残念だったのは、パッケージ裏であれだけ大々的に盛り上げようとしていた“ヤホー漫才”企画が、本編に収録されている横山にぎわい座で撮影された映像しか収められていなかったこと。折角の十周年なのだから、各地のヤホー漫才をダイジェストで収録するというような、ちょっと特別な映像を付け足しても良かったのではないか。少なくとも私は、特典にそういった映像があるものだと思っていた。連続性のある企画なわけだし……。

そして最後は“お楽しみ”。毎回、独演会では、ナイツの漫才以外のパフォーマンスを楽しめる“お楽しみ”の時間が設けられている。今回の“お楽しみ”は、芸人・ミュージシャンのはなわが2017年にリリースした感動の名曲『お義父さん』を使って、実の弟である塙がとある人物のことを替え歌にして歌い上げている。無論、面白おかしい歌詞になっているのだが、そのあまりにも壮絶な内容は笑っていいのか少しだけ迷ってしまう(そのあまりにもあまりな内容のため、浜松公演でゲスト出演していたニッチェの江上が泣いてしまっている姿を特典映像で確認できる)。トールケース内に歌詞カードも収められているので、カラオケで歌ってみてはどうだろうか。オススメはしないが。

これら本編に加えて、特典映像として「Documentary of ナイツ独演会 味のない氷だった」を収録。文字通り、ライブツアーを追ったドキュメンタリーなのだが、こういった特典にありがちなプライベートな映像などが殆ど収められておらず、ちょっとだけ物足りない。とはいえ、サンドウィッチマンのライブツアーにサプライズで登場したシーンや、ゲストとして出演したぼんちおさむと幕で軽い雑談を交わしているシーンなど、思わず目を見張るシーンもあって、なんだかんだでしっかりと楽しんでしまった。

というわけで、今回も満足度の高い作品を提供してくれたナイツだけれど、編集次第ではもうちょっと魅力的な作品になりそうな気もして、なんだかもどかしい。漫才師としてはかなり素晴らしいところまで上がり切っているので、あとは彼らを支えるスタッフ次第なのだろう。ただ、そのアンバランスさが、ある意味では魅力的といえるのかもしれない……でも、もうちょっと、映像ソフトとしての精度上げてもらえると助かります。よろしくお願いします。

■本編【93分】

「2017年をヤホーで調べました」「MURO・ん…○っぽい」「笑棋」「レストラン」「祝!ヤホー漫才10周年」「私がオバコンになっても」「夢芝居」「小さな協会」「お義父さん」

■特典映像【23分】

「Documentary of ナイツ独演会 味のない氷だった」

2018年3月の入荷予定

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

LIVE 絶滅の危機 [DVD]

 

三月は特に気になる作品がないので、皆で所ジョージのライブDVDを買えばいいのではないかと思う。2000年2月に開催されたライブを収録しているのだが、これがとにかく楽しい(※既出のCDはチェック済)。『僕の犬』『農家の唄』『泳げたいやき屋のおじさん』などといった所の代表曲を堪能できるのは勿論のこと、ゲスト・坂崎幸之助との軽妙で中身のないトークが可笑しくて仕方がない。いわゆるお笑い芸人の笑いの取り方とはまったく違った笑わせ方をしているので、その辺りにもご注目いただきたい。

お財布に余裕があるなら所サンのCDも買っちゃえばいいんじゃないの会

会長 菅家しのぶ

今更ながら「R-1ぐらんぷり2018」ファイナリストの件

ルシファー吉岡マセキ芸能社

カニササレ アヤコ(フリー)

おいでやす小田(よしもと)

おぐ(SMA)

河邑ミク松竹芸能

チョコレートプラネット長田(よしもと)

ゆりやんレトリィバァ(よしもと)

復活ステージ2位

濱田祐太郎(よしもと)

紺野ぶるま松竹芸能

霜降り明星 粗品(よしもと)

復活ステージ1位

スマホがブッ壊れたり、家族が次々にインフルエンザで倒れたり、新しい仕事の段取りがなかなか整わなかったり、そんなこんなの疲労からか体調を崩したり(現在進行形)、なにかとろくなことがない二月。なので、そんな最中に「R-1ぐらんぷり2018」ファイナリストが発表されたからといって、即座に反応できなかったのも、仕方がないというものである。決して、決してR-1に対する興味が薄れてしまった訳ではないことだけは、ご理解いただきたい。……たぶん。

というわけで、遅ればせながら肝心の決勝メンバーを確認したのだが、なかなかにバランスが良いのでは。過去に決勝進出経験のあるゆりやんレトリィバァ(四回目)、ルシファー吉岡(三回目)、おいでやす小田(三回目)、おぐ(二回目)、紺野ぶるま(二回目)の五人に、初の決勝進出者であるカニササレ アヤコ、河邑ミク、チョコレートプラネット長田、濱田祐太郎霜降り明星 粗品の五人。事務所で見ても、よしもとが五人で非よしもとが五人。男女比が六:四と昨今の女性芸人の活躍ぶりを反映しているようで、これも良い。

初の決勝進出者だけを見ても、かなり魅力的。フリーで活動しているからこそ芸風が予想できないカニササレ アヤコ、松竹からの新たなる刺客・河邑ミク、ピンでのネタが予想できないチョコレートプラネット長田、「NHK新人お笑い大賞」をきっかけに注目を集めている盲目の漫談家濱田祐太郎漫才コンビを結成するより前からピン芸に高い注目を集めていた霜降り明星 粗品……見どころしかない。

これらのメンバーに加えて、準決勝戦で敗退した芸人が復活する“復活ステージ”枠が二枠用意されている。メンバーを見ると「石出奈々子」「土肥ポン太」「ナオユキ」「中山女子短期大学」「ヒューマン中村」「マツモトクラブ」「レイザーラモンRG」といった決勝進出経験者から、「アイデンティティ田島」「おばたのお兄さん」「ZAZY」「サツマカワRPG」などの注目株まで。果たして勝ち上がるのは誰なのか。

R-1ぐらんぷり2018」決勝戦は3月6日放送予定。見るのは忘れないように……。

「6人のテレビ局員と1人の千原ジュニア」(2017年5月17日)

2016年3月25日に恵比寿ザ・ガーデンホールで開催されたライブを収録。

千原ジュニアといえば、「人志松本のすべらない話」「IPPONグランプリ」「にけつッ!!」などの番組での活躍ぶりから、大喜利やエピソードトークのように自身の視点や思考を反映した笑いを得意としている印象が強い。しかし、その一方で、ジュニアは他人の台本に身を委ねてしまうことで、プレイヤーとしての自らの能力を意識したライブも敢行している。例えば、2006年に行われた「6人の放送作家と1人の千原ジュニア」では、宮藤官九郎鈴木おさむといった人気放送作家たちの手掛ける企画・台本に挑んでいる。また、2014年に千原ジュニア・生誕40周年を記念して開催されたライブ「千原ジュニア×□」では様々なジャンルの人たちとコラボレーション。いずれのライブでも、彼の力だけでは生み出されることのなかったであろう笑いの世界が表現されている。

そして今回、千原ジュニアが目をつけたのは、人気バラエティ番組を手掛けている各局の演出家たち。「ヒルナンデス」「ワイドナショー」「水曜日のダウンタウン」「超絶 凄ワザ!」「ゴッドタン」など、今を時めく名物番組を手掛けている六人のテレビ局員たちが“千原ジュニア”という素材を駆使して、テレビとはまたベツモノの板の上の世界を作り上げている。但し、残念なことに、「アメトーーク」「ロンドンハーツ」などの人気番組を手掛けている加地倫三テレビ朝日)パートは未収録。理由は分からないが、ゲストとして出演したという田中卓志アンガールズ)絡みの何かがあったのかもしれない。そのため、本編には、五人のテレビ局員による舞台が収録されていることになる。タイトル的に不味いような気がしないでもない。

とはいえ、本編を視聴している最中に、物足りなさを感じることは一度もなかった。各局のテレビマンたちが、千原ジュニアを存分に活かした企画を用意しているためだろう。その手法も各自さまざま。某人気ドキュメンタリー番組風の映像で大喜利職人としての千原ジュニアをどんどん追い込んでいく末弘奉央(NHK)、「2016年、もしも千原ジュニアが全くの無名の若手芸人だったら、やはり“売れる”のだろうか?」という空想世界を構築した内田秀実(日本テレビ)、千原ジュニアによる鉄板のエピソードトークを様々な手段で妨害する佐久間宣行(テレビ東京)など、それぞれの経験によって培われた技法でもって千原ジュニアの良さを引き出している。

その中でも圧倒的だったのは、竹内誠(フジテレビ)と藤井健太郎(TBS)。

竹内誠(フジテレビ)が用意した企画は「daiben.com」。【ジャンルの専門家たちが面白いと思う話】を千原ジュニアが代弁、その巧みな話術でもって、面白いエピソードトークへと昇華する。恐らく、ジュニアの話芸の魅力を引き出すために打ち出された企画だったのではないかと思うのだが、ジュニアに代弁をお願いする代弁依頼人の個性があまりにも強烈過ぎて、本来の企画意図が吹っ飛んでしまっている。否、厳密にいえば、二人目の代弁依頼人「気象予報士天達武史」においては、きちんと企画が成立している。ただ、一人目の代弁依頼人「きのこ愛好家・堀博美」が、あまりにも衝撃的過ぎて、天達氏も天達氏の代弁話もまったく記憶に残らない。それぐらいに衝撃的な人物で、持っているエピソードも濃厚で、ただただたまらなかった。思うに、むしろ『アウト×デラックス』向けの人物だろう(話の内容は放送できないだろうが)。ただ、企画そのものは確かに魅力的で、本編に収録されている企画の中で最も“テレビ向け”に感じられた。

そんな(結果的に)人間力の強さを見せつけていた竹内氏に対して、藤井健太郎(TBS)は徹底的に考え抜かれた企画を考案。その内容は、過去の千原ジュニアの映像素材をかき集めて編集、現在のジュニアとアドリブで会話、対決するというもの。……正直、企画そのものに関しては、誰もが思いつくことだろう。ただ、それを実際にやってみようなどと思った人間は、そんなにいない筈だ。何故ならば、それを実現するためには、たった一度きりのライブを成立させるために出来る努力の範疇を優に超えてしまうからだ。実際に映像を見れば、そのバリエーションと密度に驚かされることだろう。というか、この企画を見るためだけに、本作を購入してもいい。あの「水曜日のダウンタウン」、あの「クイズ 正解は一年後」を手掛けている名プロデューサーが、千原ジュニアが口にするであろう発言を想定して、過去の映像素材をかき集めて、このライブに全力で臨んでいる壮絶な23分を確認していただきたい。

ちなみに、各チャプターの冒頭で、各局の担当者へのインタビューが取り上げられているので、そちらにも注目してもらいたい。それぞれのテレビに対する意識の違いみたいなものが感じられ、なかなかに面白いぞ。

◆本編【125分】

1ch(NHK):末弘奉央

4ch(日本テレビ):内田秀

5ch(テレビ朝日):加地倫三(※本編未収録)

6ch(TBSテレビ):藤井健太郎

7ch(テレビ東京):佐久間宣行

8ch(フジテレビ):竹内誠

◆特典

千原ジュニア放送作家高須光聖によるオーディオコメンタリー

「トップリードのコント集」(2010年12月1日)

トップリードのコント集 [DVD]

トップリードのコント集 [DVD]

 

太田プロ所属のお笑いコンビ、トップリードの傑作選である。

あまりにもシンプルなタイトルからは、コントの演じ手としての意地とプライドが感じられる。事実、本編には、彼らの代表作だけが厳選して収録されている。幕間映像は一切無い。実に潔い。“トップリード”名義の作品は、本作の他に2011年11月に開催された単独ライブを収録した『単独ライブ 二日坊主』が存在する。この二枚だけである。本作のリリース後、トップリードは「オンバト+」初代チャンピオンに輝き、「キングオブコント」で二度の決勝進出を果たしている。それなりの功績だ。そのことを思うと、この本数はあまりにも少なすぎやしないか。売り上げが芳しくなかったのかもしれないが、もっとソフトがリリースされても良かったのではないか……と今更ながらに思う。

本編には七本のコントを収録。本作はお手ごろな価格で若手芸人のネタを楽しめるシリーズ【笑魂(Short Contents)】の一作としてリリースされたため、ボリュームはやや控えめだ。とはいえ、ここは敢えて、「少数精鋭」という言葉を使わせていただきたい。なにせ、本編を再生し始めて、いきなり始まるコントが『狭いラーメン屋』である。文字通り、新妻が店長を務める“狭いラーメン屋”を訪れた和賀が、その店ならではの特殊な調理法を目の当たりにする様子を描いている。通常のコントのように、当事者同士がボケとツッコミの関係性にあるのではなく、コントの舞台が持つ特異性が結果的に二人をボケとツッコミの関係にしてしまう。とはいえ、決して非現実的とまではいかない、ギリギリ現実味のある設定なので、シチュエーションを無理矢理に作り上げているような印象は与えない。バランスの整った、素晴らしいコントである。

この他のコントも名作揃い。新妻の新宅への引っ越しのお手伝いを終えた和賀が雑談中に衝撃の事実を知ることとなる『引っ越しのお手伝い』、恋人と別れた悲しさから友人の新妻とベロベロになるまで酔っ払った和賀が翌日に己が犯した過ちに気付かされる『二日酔い』、トイレの前でコンパの作戦を打ち合わせる二人に秘められた想いとは?『コンパのトイレタイム』などなど……いずれのネタも巧みな構成がとても魅力的だ。芸能の世界において、決して目立つ見た目をしているとはいえない二人だが、だからこそ、それぞれの魅力を存分に引き出せる台本を適切に作り上げている。

これら傑作コントの中でも、突出して素晴らしいネタが『雨の建設予定地』と『先行く男』である。『雨の建設予定地』は『狭いラーメン屋』と同様、特異なシチュエーションが結果としてボケとツッコミの関係を作り上げているコントだ。雨の建設予定地を確認にやってきた二人が、傘とお土産で手元が塞がっている中でぐちゃぐちゃになりながら打ち合わせを重ねていく様子はとても滑稽で、しかし、その何処か見覚えのある混乱した状態に、共感を覚えずにはいられない。片や『先行く男』は、新妻演じるせっかちな男が、あまりにもせっかち過ぎて未来を予測していくという、他のコントとは一転してSF色の強いネタだ。とはいえ、あくまで舞台は日常的な風景で、いわゆる「すこしふしぎ」な魅力に満ち溢れている。当たり前のことのように平然と未来を先読みする新妻と、そんな新妻の言動に戸惑いを隠せない和賀のやり取りは、シチュエーションはまったく違っているものの、これまた『狭いラーメン屋』における、その状態を当たり前に感じている者(新妻)とその状態に始めて遭遇して驚きを隠せない者(和賀)の差異ある関係性を思わせる。その姿勢からは、異常を異常と突き放さない優しさが垣間見える。

これら本編に加えて、特典映像としてコント『雨男』と本編に収録されているコント『二日酔い』のオチの後の流れを撮影した『二日酔い おまけ』を収録。『雨男』は超が付くほどの“雨男”なアメミヤ(新妻)が、友達とキャンプに出掛けるのを楽しみにしている様子を描いたコント。基本的には笑えるのだが、雨が降っている状態がデフォルトなアメミヤの不遇な扱いがあまりにも哀しく、本編に収録されているネタに比べて作品性が強い。純粋にネタとしても勘当させられるのだが、和賀の「俺、こいつとは一生、一緒にいようって」という台詞は、今となっては非常に重い。もはや舞台に戻ることはなかったとしても、そうし続けてくれるのだろうか。

最後に改めて。勿体無い。

◆本編【39分】

「狭いラーメン屋」「ヨクルトおばさん」「引っ越しのお手伝い」「二日酔い」「雨の建設予定地」「先行く男」「コンパのトイレタイム」

◆特典映像【11分】

「雨男」「二日酔い おまけ」