白昼夢の視聴覚室

この世は仮の宿

マツモトクラブ「ヒトミシリ want you!」(2016年7月27日)

ヒトミシリ want you ! [DVD]

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R-1ぐらんぷり」で三度の決勝進出を経験している実力派・マツモトクラブが作・演出・監督を手掛けているコント映像作品集である。『お賽銭』『美容室』『そんな出会い』など、マツモトクラブの既出の持ちネタが主に映像化されている。正直、本来は舞台用に作られたネタなので、映像化することによって本来の面白さが薄まってしまっている感は否めない。例えば、美容室に行ったことのない男が初めての美容室にカルチャーショックを覚える『美容室』は、美容室および美容師の存在を可視化することによって、舞台版では最も重視して描かれていた「美容室に対する男の戸惑い」以外の部分に気が散ってしまう。無論、それでも十二分に面白いのだが、舞台版の面白さには敵わない。

とはいえ、本作が意欲的な姿勢によって作られた作品だということは、高く評価すべき点である。ただマツモトクラブがコントを演じている姿を、能天気に撮影しているような平凡な作品ではない。クセの強いカメラワーク、飽きさせないカット割り、ちょっとした細かい演技に至るまで、マツモトクラブの徹底したこだわりが感じられる。黒柳徹子風の語り口で客を追い詰める不動産屋に入ってしまった男の困惑を描いた『徹子の不動産』における、話の流れで披露されるサッカーのゴールキックの絶妙な映り具合には感心した。一方で、構成にも力が入っている。それぞれに独立しているように見えたネタがとあるコントをきっかけに一本の線に繋がったかと思えば、そこから更なる進展を見せる。正直、色々と詰め込み過ぎのような気がしないでもないが、全力の姿勢で臨んだことが画面からひしひしと伝わってくる秀作といえるだろう。でも、どうせなら、舞台版も特典か何かで収録しておいてほしかったかもしれない。

これらの本編映像に加えて、特典として撮影時にマツモトクラブがうっかり吹き出してしまった映像をコメンタリー付でお送りする「フキダシテ shot you!」が収録されている。自分で考えたネタに自分で笑ってしまっているマツモトクラブの表情は、彼のファンにはちょっとたまらないものがあるだろう。うーん、あざとい。

■本編【76分】

「喫茶ドレミ」「お賽銭」「恐怖の定食屋」「美容室」「そんな出会い」「日曜日のマツモロウ」「徹子の不動産」「ぼくたち同級生」「天使と悪魔と。。。」「ダーツの旅」「ぼくたちの夢」「エンディング「♪ヒトミシリ want you!」」

■特典映像【11分】

「フキダシテ shot you!」

■封入特典

「あのミュージシャンの譜面」

「シソンヌライブ[cinq]」(2017年4月5日)

2016年7月14日~18日に本多劇場(東京)、23日・24日に石川県教育会館、30日・31日にテイジンホール(大阪)で開催されたライブより、本多劇場での公演を収録。

コントとは笑えるモノ。多くの人がそういう認識を持っているだろう。だが、シソンヌのライブにおいて、その考えは通用しない。無論、笑えないわけではない。むしろ笑わずにはいられない。じろうの卓越したキャラクター、長谷川の揺るぎなきツッコミ、両者がしっかりと噛み合った瞬間に起こる笑いの凄まじさは、彼らが『キングオブコント2014』を制した事実が証明している。そう、シソンヌのコントは間違いなく笑える。ただ、それだけでは、ない。

本作の一本目に披露されている『やめられないお母さん』は、数多くの外国人旅行者を自宅に民泊させている母親と、そんな母親の行動に対して不安を感じている息子のやり取りを描いたコントだ。カタコトの英語を駆使して電話の向こう側にいる外国人と打ち合わせをしている母親と、次から次へと自宅へやってくる外国人に嫌悪感を覚え始めている息子……その姿は、日本の何処かで実際に目にすることが出来そうな風景である。だが、ふとした瞬間、その和やかなやりとりに、微かな緊張感が走る。例えば、自宅から家族にとって大事な物が紛失していることが発覚した瞬間、既に父親が亡くなっていることが語られる瞬間、母親が外国人を民泊している本当の理由を明らかにする瞬間……それは本来ならば「笑いごとでは済まされない」ことだ。否、そもそも、有り得ない人数の外国人を招き入れて、家族から反対されているという状況こそ「笑いごとでは済まされない」のである。だが、それらは全て、深く追及されることなく、不自然なほどあっさりと受け流されてしまう。その瞬間、舞台には通常のコントであれば起こるはずのない、生々しさを纏った不穏な空気が発生する。

この他にも、本作では様々な不穏な空気を漂わせたコントが演じられている。まったく家から出ようとも働こうともしない息子のことを、「社交的で明るい」というだけでニートであることに気付かなかった父親のやり取りが楽しくも落ち着かない『うちの息子、実は』。衝撃的なテロップで味付けされていることで笑いが起こっているが、実際に起きていることはホラー映画級の恐怖体験である『ばばあの罠』。試合でサヨナラ勝ちを決めた野球選手に球界の御意見番と呼ばれるリポーターがインタビューを始めるのだが、放送される媒体がテレビからラジオに切り替わった瞬間、その態度を一変させる『ヒーローインタビュー』。……どのコントにおいても、じろうのクセがあるキャラクターとともに、不穏な空気が付きまとう。その空気に気付かされるたびに、こちらの感情も揺さぶられる。実にたまらない。

これらの中でも、飛び抜けた傑作が『てんぷら』だ。とある小料理屋を訪れたサラリーマンが空腹から沢山の料理を注文するのだが、店主とのやり取りの中で、気が付けば頼んでいる全ての料理がてんぷらだということが発覚し……。二人の会話そのものは自然なやり取りなのに、その中で繰り広げられているのはあまりにも不自然な展開で、ゆっくりと狂気の海へと沈んでいく心地良さがたまらない。また、コントの軸となっているアイテムが、「てんぷら」というのが絶妙だ。どんな材料を使ったとしても、それをカラッと油で揚げてしまえば、それは全ててんぷらになってしまう。着眼点の上手さに感心せざるを得ない。

そして、ライブの終わりが近付くころ、本作最大のコント『止めてみたものの』が幕を開ける。コントの舞台は断崖絶壁。海を見つめながら佇んでいる長谷川の元へ、友人の大河原が慌てて駆け付ける。大河原は、連絡が取れず、マンションは解約され、仕事も辞めてしまった長谷川に生命に危険を感じ、あっちこっちを探し回っていたのだ。案の定、自殺しようとしていた長谷川に対し、大河原は友人として激しく説得する。その気持ちが伝わったのか、長谷川は死ぬことを思い留まる。その生きる希望に満ちた表情を見て、安堵する大河原。しかし、長谷川が本気で死のうと考え、仕事も家も貯金も全て失ってしまったことを知り、一気に表情を曇らせる。そして、「イチから頑張ればイイんだもんな!」と満面の笑みを浮かべる長谷川に対し、「俺、無責任なこと言ってたな……」と後悔し始めて……。

正直なところ、シチュエーションだけを取り上げると、さして珍しいものではないように思う。自殺志願者をテーマにしたコントは過去にも数多く存在している。そこから、自殺を止めた人間がその行為を後悔し始める……という展開のコントが生み出されても、大して驚きはしない。ただ、ここで重要なのは、これまで描かれてきた「笑いごとではすまされないこと」を自然に受け流してしまう行為が、ここでは一つの希望となっている点だろう。このコントの長谷川に未来があるとは言い難い。だが、とりあえず生きてみれば、どうにかなるのかもしれない。これまで不穏な空気を発生させていた一種の鈍感さが、ここでは救いになる。そのコントラストがとても美しい。

これらの本編に加えて、特典として「オーディオコメンタリー」と「メイキング」を収録。「オーディオコメンタリー」では、じろうが自らの高い身長を悔やむくだりがあって、演じる側としてはそういう悩みもあるのかと妙に驚いた。なるほど、確かにじろうのようにキャラクターを演じる芸人にとって、高すぎる身長は却って笑いに転換しづらいものなのかもしれない。

■本編【100分】

「やめられないお母さん」「最新の勉強法」「うちの息子、実は」「ばばあの罠」「てんぷら」「家具屋」「ヒーローインタビュー」「止めてみたものの」

■特典音声

「シソンヌライブ[cinq]」オーディオコメンタリー

■特典映像【13分】

「シソンヌライブ[cinq]」メイキング

「UWASAのネタ」(2017年6月21日)

ナイツ「早くマイクに辿り着きたい」

南海キャンディーズ「シェアハウス」

サンシャイン池崎「記憶喪失」

中川家次長課長井上「韓国でありそうな番組」

NON STYLE「刑事の取り調べ」

友近ハリセンボン春菜「路上販売」

サンドウィッチマン「ゴルフのキャディ」

カミナリ茨城県のアピールポイント」

U字工事「栃木に比べて茨城は」

レイザーラモンRG細川たかし「『北酒場』で細川たかしのあるある」

クールポコ。&三遊亭好楽「モテようとして……」

トレンディエンジェル斎藤(&タッキー)「ジャニーズメドレー」

ヒロシ(&水卜麻美)「ヒロシです

オードリー若林「野球教室」

平成ノブシコブシ「火事の現場」

AMEMIYA(&DAIGO)「うぃっしゅポーズはじめました」

テレビではあまりお目に掛かれないネタを「UWASAのネタ」として披露するバラエティ番組。番組を見始めた段階では、無闇に大きい観覧客のゲラ声や意味のないチーム対抗戦システムに少なからず違和感を覚えたが、細川たかし三遊亭好楽が芸人とネタでコラボしたり、水卜アナやDAIGOがネタを披露したり、トレンディエンジェル斎藤がジャニーズの替え歌をタッキーと歌ったり、そもそもネタ番組として見ることが間違っているのだと気付かされた。こういうのは酒でも引っ掛けながら気楽に見るべきなのだろう。とはいえ、その一方で、南海キャンディーズの新ネタやオードリー若林のピンネタをオンエアするという、妙にシブい一面も。浅さと深さを両立させようとした結果、このような番組に仕上がったのかもしれない。ちなみに、企画・演出は、「落下女」「ぜんぶウソ」「潜在異色」「たりないふたり」などの番組を手掛けた安島隆。

一番笑ったのは、友近ハリセンボン春菜のコント。正直、中川家友近が繰り広げる類いのアドリブコントにはもう飽き飽きしていたのだが、路上で雑多とした商品を売っているヤバい二人が取り留めのない話を延々と繰り広げる……という設定がもうたまらなかった。よくテレビで放送できたな。中年男を演じた春菜の演技力の高さにも驚いた。あんなにリアルに中年男性を演じられるとは。ビジュアルだけの問題ではないだろう。お見それしました。

2017年7月の入荷予定

26「アンガールズ単独ライブ「俺、、、ギリギリ正常人間。」

26「裸の王様」(アキラ100%

26「M-1グランプリ2016 伝説の死闘! 〜魂の最終決戦〜

アンガールズは二年連続でのリリース。今年も「キングオブコント」に出場するのかな。田中ばかりがバラエティに出演している現状、こうしてコンビでのネタにも力を入れてくれるのは大変に喜ばしい。ご存知「R-1ぐらんぷり2017」王者・アキラ100%はこれが初の単独作品。彼自身の芸風は単純だが、現時点でSMA芸人による作品はほぼハズレなし(バイきんぐ、マツモトクラブ、オテンキ、ハリウッドザコシショウ、だーりんず等)なので、けっこう期待している。「M-1グランプリ」のDVDは王者・銀シャリの一本目のネタが版権の関係で収録できないという緊急事態。その代わり、彼らによるネタ解説が収録されるということなので、そちらの方でなんとかリカバリーしていてもらいたいところ。その他、敗者復活戦、M-1リターンズ、ドキュメンタリーオブ銀シャリなどの映像を収録しているらしい。楽しみだね。

「髭男爵 単独舞踏会「ボンジュール~お姉さんのロンドン留学の話がなくなってもいいのかい!?~」」(2008年12月24日)

髭男爵 単独舞踏会「ボンジュール~お姉さんのロンドン留学の話がなくなってもいいのかい!?~」 [DVD]

髭男爵 単独舞踏会「ボンジュール~お姉さんのロンドン留学の話がなくなってもいいのかい!?~」 [DVD]

 

2008年7月に新宿明治安田生命ホールで開催された単独舞踏会を収録。

爆笑レッドカーペット」を中心としたショートネタブームの最中、数々のキャラ芸人たちとともに注目を集めたお笑いコンビ、髭男爵の貴重な単独作品である。ただ、この時点で髭男爵は、M-1グランプリの準決勝戦に進出するほどには実力が認められていたので、他のキャラ芸人たちと十把一絡げにまとめてしまうのは、少し違うのかもしれない。事実、ツッコミを入れるたびに、お互いが手にしているワイングラスをぶつけ合う“貴族のお漫才”スタイルは、漫才の演出としてもリズムとしても魅力的で、非常によく出来ていた。

本編でも“貴族のお漫才”が披露されている。オープニングを飾っている『バケーション』というネタがそれだ。最近、プライベートで色んなことがあって疲れているというひぐち君に、男爵様が一緒にバケーションに出かけないかと話を持ち掛ける。オープニングトークからの流れで披露されているため、やや違和感の残る始まり方をしてしまっているが、肝心の内容は十年近く経過した今でも十二分に面白い。“貴族のお漫才”がヒットしてからというもの、髭男爵は新たなフォーマットを模索するようになっていったのだが、このフォーマットだけでも十二分に戦えたのではないかと今となっては思わずにいられない。

その模索の中で生まれた漫才が『本』である。蔵の中から沢山の本を見つけてきたひぐち君が、男爵様の未来が書かれているという予言書を読み上げていく。読み物漫才にシフトチェンジするという発想は悪くなかったように思うが、男爵様が本の内容にツッコミを入れると同時にページを破り捨てるというスタイルは宜しくない。例えば、普段から本に慣れ親しんでいる読書家の人ならば、それが演出だと分かっていたとしても、本の頁を破り捨てるという行為に少なからず不快感を覚えるだろう。……あと、舞台が汚れるし。それはそれとして、こちらもネタの内容は面白かった。途中から、男爵様の本当のプロフィールが読み上げられていくのだが、その詳細がいちいち強烈で、もっと詳細が知りたくなった。近年、男爵様が世にお出しになられたエッセイ本『ヒキコモリ漂流記』には、きっと細かい情報が書かれているのだろう。まだ読んでないから分からないけれど。

これ以降の漫才は、いずれも単独公演ならではの遊び心に満ちたネタとなっている。例えば、覆面を装着して剣を手にした男爵様が剣で壁に刻んだ文字でひぐち君のボケにツッコミを入れる『怪傑ゾロ漫才』、ひぐち君が考えてきたショートコントに男爵様が強引に巻き込まれる『セクシーオリンピック』、男爵様のボケに身分の差から対等にツッコミを入れることが出来ないひぐち君が民衆(=観客)の協力を得てツッコミを入れようと試みる『民衆の声漫才』……正直、文章だけで説明して、これらの漫才の概要がきちんと読者の方々に伝わっているのか不安になるが、とにかくそういうようなネタなのである。

正直、芸人のネタとして見ると、完成度はさほど高くはない。ただ、貴族と召使のコンビが観客を楽しませることに重点を置いたライブとしては、とても面白かった。ひぐち君が天狗になっていることをVTRで徹底的に糾弾したり、髭男爵サンミュージックの社長とダンディ坂野モノボケに興じたり、幕間で謎の外国人俳優が茶番を披露したり……他所ではなかなか見られない楽しさに満ち溢れていた。もしも私がナマでこのライブを観ていたとしたら、きっと良い思い出として記憶に残ったに違いない。

ちなみに、どうしてこの作品を今のタイミングでレビューしているのかというと、「ワイドナショー」に出演された山田ルイ五十三世のコメントがTwitterで話題になっていたからだ。……このようなことを書くと、なにやら話題に便乗しようとしているように見られるかもしれないが、こちらの気持ちはむしろ逆だ。コメンテーターとしての山田ルイ五十三世が注目を集めることは別に構わないのだが、それに伴い、芸人としての髭男爵の確かな面白さを忘れ去られてしまうことに不安を感じたのである。十年前、髭男爵は確かに面白いコンビだったし、その“貴族のお漫才”は唯一無二のスタイルだった。それだけはしっかりと覚えておいてもらいたい。今も漫才が面白いのかどうかは知らんが。きっと面白いんじゃないかなあ。

■本編【84分】

「バケーション」「ショートコメディ「ロバーツとキャロライン」」「本」「怪傑ゾロ漫才」「ショートコメディ「パン泥棒」」「セクシーオリンピック」「VTR:天狗なひぐちくん」「ひぐちくんオーディション」「ショートコメディ「借金」」「キツネ狩り」「民衆の声漫才」

■音声特典

髭男爵大関隆之(マネージャー)・堀由史(構成作家)・山本しろうエルシャラカーニ)によるコメンタリー

ネットカフェに行ったというだけの話。

このところ、ブログの更新が格段に滞っているのは、お笑いに対する興味が失われてしまったわけではなく、お笑い芸人のDVDをレビューすることに対するモチベーションが行方不明になってしまっただけなので、そういったものを欲求なさっている読者の皆様方は是非とも心配なさって頂きたいところ。なにより私自身が心配している。困ったものだ。それでも文章を書きたいという執筆欲と文章を読まれたいという承認欲は中学生の性欲レベルにまで高まっているので、先日久しぶりにネットカフェへと出かけた話を書き残してみようと思う。私の旅行記は一部に人気があるらしいので、こういうのもそれなりに楽しいだろう。

2017年6月17日、ネットカフェに行く。私は田舎での生活を余儀なくされている似非サブカル野郎なので、定期的にネットカフェのような地方の泥臭さから隔絶された空間に身を置かないと、憤死してしまうのである。この日、私が訪れたのは、香川県宇多津市にある「快活CLUB 宇多津店」。より自宅に近い場所に他のネットカフェチェーン店も幾つか存在しているのだが、それらの店舗はダーツやビリヤードに興じるようなリアル充実エンターテインメント人生を送っているような人たちを優先した構造になっているので、私のような心も身体も性欲も陰惨を極めている身としては、憂鬱と嫉妬にまみれて自害してしまいかねない。その点において、快活CLUBは安心だ。アジア的なインド的な何かをモチーフとした怪しげな空間作りが実にたまらないし、店内を徘徊している同胞たちの人生を上手く生きることが出来ていないことが全身から滲み出ているのも嬉しい。ああ、私はこの世で独りぼっちじゃない!

自宅から車を走らせて約一時間後、「快活CLUB 宇多津店」に到着したのが午後1時半を迎えたころ。国道十一号線からスムーズに駐車場へと飛び込む。この店の駐車場の収容台数は微妙に少ないので、ひょっとしたら駐車できないのではないかという不安もあったのだが、かろうじて一台分だけ空いていたので、そこに停める。その直後、財布の中身が心許なかったことを思い出す。否、気のせいではないかと思い、きちんと長財布を開いて確認してみると、千円札が一枚しか入っていない。気のせいではなかった。ううむ。無論、千円だけでも、ネットカフェを楽しむことはそれなりに可能だ。とはいえ、心から楽しむには、やはり多少の余裕をもって臨みたいというのが人の心というものである。そこで車内に小銭は残っていないかと調査してみたところ、ダッシュボードで五百円玉を発見する。勝機は我にあり! 千円と千五百円とではまったく事情が変わってくる……という話を文章で説明するのは非常に業務的な面倒臭さを伴うので、各自で快活CLUBの利用料金をチェックしていただけると有り難い。

そんなこんなで店内へ。ここでは「オープンシート」「リクライニングシート」「フルフラットシート」「マッサージシート」などの席を選ぶことが出来る。「ソファシート」「ペアフラットシート」などの二人用の席もあるらしいが、そんなものは知ったことではない。帰れ。普段の私は「フルフラットシート」(お座敷タイプのブース席)を選んでいるのだが、この日は私と同様に堕落を貪りたい人間のボーダーライン上に居る方々が他にも多数来店していたらしく、満席だったため「リクライニングシート」(リクライニングチェアタイプのブース席)を選んだ。余談だが、もしも宿泊を目的にネットカフェを利用するならば、絶対に「フルフラットシート」を選ぶべきである。それ以外の席だと、翌朝になって首がちぎれかけているからだ(寝方が良くないのかもしれない)。

受付を済ませたら、まずは席へと移動する。持参した荷物を置くためである。ドリンクバーと書棚の間にある通路を通り抜け、ブース席が並んでいるフロアへ。ブース席の中からはまったく人の気配がしない。だが、確実に、そこには何者が存在する。ことによると、そこにいるのは人間ではないのかもしれない。私の席はブース席の中でも端っこの席だった。端っこの席は後ろを通過する人間が少なくなるので、防犯面においては安心だ。ただ、反対側の席が「ソファシート」で、時たま男女のヒソヒソ声が聞こえてきたのでとてもワイセツだった。私がセコンドならタオルを投げて追い出すところである。投げるな。荷物を置いたら、飲み物を取得するためドリンクバーへと戻る。人間の身体の約60%は水分で出来ているという。水が無ければ人は生きていけない。それはネットカフェであっても同様だ。下劣で無様な漫画を読みふけることよりも、インターネットでアダルト動画を入手することよりも、まずはライフラインたる飲み物である。この日は客としての権限を大いに振るい、多量のジンジャーエールを搾取、甘い汁を注ぎ込んだコップを持って席へと戻った。

あとは漫画である。以前から気になっていた漫画を書棚から回収し、ただひたすらに読み進める。以下、読んだ漫画。

ナナメにナナミちゃん(1) (ヤングマガジンコミックス)

ナナメにナナミちゃん(1) (ヤングマガジンコミックス)

 
ぽちゃこい 1

ぽちゃこい 1

 

ネットカフェに来ると、いつもクール教信者ばかり読んでいる気がする。ネットカフェという場所の雰囲気と氏のネットユーザー特有の出鱈目に埋没していく思考が不思議と合致しているのかもしれない。『ナナメにナナミちゃん』は一部内容がネット上に流出して、ちょっとだけ炎上しそうな雰囲気になっていた作品。事実、amazonレビューはほんのり荒れているのだが、根本的な読み方が誤っている気がしてならない。ムラタコウジはエロとアホが混在した作品を得意とする漫画家だが、『ぽちゃこい』はエロを抜いてアホだけで成立させている。独特のテンションが面白い。オジロマコトは傑作『富士山さんは思春期』の作者。『富士山さん~』がそうであったように、『猫のお寺の知恩さん』も青春の瑞々しさとちょっとエッチな描写が上手く噛み合っていて、面白かった。三巻の終盤の不穏な空気も気になるところなので、これは単行本を買うかもしれない。『ポプテピピック』は初読。噂通りにヒドかった。

午後3時50分ごろ、店を出る。ネットカフェに長居してしまうと、本当に一日があっという間に過ぎてしまうので、三時間ほどの滞在が丁度良いのである。ネットカフェに長居していいのは、そこに宿泊する覚悟が整っている場合だけだ。

行きも帰りも車内には私立恵比寿中学の最新アルバム『エビクラシー』が流れていた。

エビクラシー(期間生産限定盤)

エビクラシー(期間生産限定盤)

 

毎度、明るく楽しい音楽に包み込まれているエビ中のアルバムだが、本作は全体を通して切なさが滲んでいるような印象を受けた。否、その原因はなんとなく分かっているのだが、だからこそ、それは単なる思い過ごしでしかないような気もしている。このアルバムを聴いている私の中に残っている記憶が、このアルバムを切なくさせているだけなのかもしれないからだ。でも、それでも、『感情電車』の「感情電車は特快で今 もう もう どこにも止まれないよ」という歌詞に、『紅の詩』の「油断して知らない歌で泣きそーうだ」という歌詞に、『フォーエバー中坊』の「永遠に 永遠に 永遠に 中坊」という歌詞に、“今”に連れてくることの出来なかったメンバーを重ねてしまう。

なんだか感傷的になりながら、家路をゆらゆら向かったのであった。

夜を漂う『エイリアンズ』

ああ、キリンジいいなあ、と思うわけですよ。

LINE mobileのCMをご覧になられましたか。いいですよねえ。のん(能年玲奈)が出演しているってだけでも話題性は十二分ですが、楽曲にキリンジの『エイリアンズ』を使っているというのが大変に宜しいです。現世とはかけ離れた世界にいるかのようなのんの非現実感と真夜中の街の情景を繊細に切り取った『エイリアンズ』の歌詞が素晴らしい融合を見せております。

まるで僕らはエイリアンズ
禁断の実 ほおばっては
月の裏を夢みて

それはなんだか、のんという女優の不可思議な境遇を物語っているようにも見えて、もしかしたら送り手の意図以上の深みを感じさせられてしまうのでありました。

……と、こうして記事にするのはタイミング的に遅すぎるのではないかと思われるかもしれない。はい。つい先ほど、このLINE mobileのスペシャルCMが流れているのを見かけて、同CMの通常版を目にしたとき以上に感動してしまったので、思わずこのような文章を書き上げてしまったのでした。いやー、いいシリーズだ。

映画を観に行った話。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

 

週末。「SHOW COM」用の原稿でモチベーションを使い切ってしまったことに加えて、仕事中に上司からまあまあ理不尽にブチギレられたので(若い頃は、あんな風にキレられるような人生を送ることになるとは思わなかったな)、あらゆる感情が絞りカスのようになってしまっていたのだが、適当に時間を作って『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』を観に行ったおかげで、いくらか気持ちが晴れた。いやー、いい映画だった。事前に前作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を観て、キャラクターたちの関係性を再確認しておいたことが非常に良かった。

否、そもそもの話をすると、私は前作を映画館で観賞したとき、それほど感動できなかったのである。勝手にコメディ調のSF映画なのだろうと決めつけて、最初から最後までそういう視点から鑑賞してしまったからだ。確かにコミカルなシーンは多い映画なのだが、それでもコメディではない。今回、この意識を完全に切り替えて、前作と本作を洋画版「カウボーイ・ビバップ」を観るような感覚で観賞したところ、実に良かった。まぁー、良かった。前作からのキャラクターたちが次々に登場するのだが、そこから更に全員の心の深いところにまでしっかりと触れていて、でもキャラクターを崩壊させるようなことはしてなくて、後半はとにかく胸が熱くなるばかり。終盤10分くらいは、文字通り号泣が止まらなかった。これでもかと流れる名曲の数々も素晴らしく、帰りに何故かボブ・マーリィのライブアルバムを買ってしまった。なんでだよ。サントラ買えよ。

Live

Live

 

でも、アルバム自体は良かった。これはあくまで自論なのだが、お互いをディスりあうフリースタイルの流行が終わったら、次は平和的で優しいレゲエが流行るのではないかと思う(湘南乃風とかみたいな感じではなく、もっと身近で日常に根付いた感じの)。今年の夏はレゲエだ。

何が言いたいかというと、気分が腐っているときは映画がいいぞ、という話でした。